砂田 武志(国際手話通訳・ガイド)
2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックには、世界中の国々から多くの人々が日本を訪れます。それに向けて、あらゆる人々が日本の多様な文化に触れ、享受できるよう、障害のある人々に対する環境整備の必要性についても様々な議論が広がっています。
こうした状況を踏まえ、国際手話通訳・ガイドとして国際交流の第一線で活躍する砂田武志氏に、国際手話と国際手話の今後の展望についてご寄稿いただきました。
国際手話講座の様子
国際手話で何をするか
私は講座初日に必ず「国際手話は発展途上の言語であり、言語として完成されるのは100年後と言われている」ということを受講生に正直に伝えるようにしています。これを聞いて去っていく者も少なからずいますが、そもそも異なる言語を覚えるということは、その言語における変化をも柔軟に受容する態度が求められるのではないでしょうか。
講座を受講する動機は様々ありますが、結局は国際手話で話したい、伝えたいと思うから覚えようとするのでしょうし、それは他の言語においても同様のことが言えます。
東京五輪まであと5年。国際手話を覚えるには、まだ十分時間があると思われるでしょうか。
ここでお伝えしたいのは、国際手話を学ぶ上で大切なのは「国際手話で会話ができるようになる」ことではなく、「国際手話で何をするか」ということです。国際手話で道案内をする。名所旧跡をガイドして共に観光地巡りをする。ホストファミリーを務める。通訳を行う。そのいずれにおいても到達点は、国際手話で会話ができるようになることではなく、むしろ、その先にある目標こそが到達点であると言えます。中には、先の目標がない者もいますが、そういう者は途中で挫折し去っていきます。東京五輪までに、先の目標に到達したいのであれば、今から学習し始めても早すぎることはないでしょう。
国際手話ガイドの様子
共に学び、共に歩む
私は国際手話に興味を持ち学習したいと思う方々は誰でも歓迎します。きっかけは何でもよいのです。途中で目標が出来て学習意欲が出てくる者もいるからです。そして学習を途中で止めてもそれは本人の自由です。すっかり忘れても、また覚えなおせばよいのです。少しずつでも諦めずに国際手話に触れ続けることが大切であり、それは私自身が身を持って実感していることです。
世界は本当に広い。私自身もまだ知らない単語が数多くあり、知らないことは知らない、と正直に言います。そして共に学び共に歩んでいきます。
日本においては、国際手話を生かして仕事をする機会はまだまだ少ないのが現状です。しかしながら国連主催の世界会議においても国際手話通訳がつくようになりましたし、日本においてそういう世界会議が開催される機会も増えてきています。近い将来ますます国際手話の需要は増えてくるでしょう。日本人通訳者も、英語に加えて国際手話ができればより強い武器となるのは間違いありません。
シドニーで開催された2nd International Conference of the World Federation of the Deafの様子
ろう者が国際手話通訳者として活躍する現場も増え、聴者とろう者が協働して通訳を行う機会も増えるでしょう。ろう者が通訳やガイドを勉強する場は本当に少ないですが、来るべき日に備えて育成し、現場に送り出す必要性を、ほんの少しだけ先を歩いている者としては、肌で感じています。
一日も早く皆さんと協働したいと願いながら、今日も国際手話を教えています。
砂田 武志(すなだ たけし)
一般社団法人日本国際手話通訳・ガイド協会理事長、国際手話講師、日本手話講師、日本デフバレーボール協会 デフリンピック日本代表 専属国際手話通訳。現在はろうスポーツ等の分野における会議国際手話通訳、セミナーなどの国際手話同時通訳に従事。