岩田亜希子(saisir)
江角泰俊(Yasutoshi Ezumi)
伴真由子(Ban San)
森川拓野(TaaKK)
森下慎介(LAMARCK)
モデレーター:首藤眞一
(文化ファッション大学院大学准教授、ブランドニュース株式会社代表取締役社長)
国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、政府(外務省)が推進する北米地域との青少年交流の一環として、"KAKEHASHI Project -The Bridge for Tomorrow-" を実施しています。
その一環で2014年度から実施しているファッション、デザイン、アニメ、アートの4分野を対象とした「日米若手クリエーター交流」事業の第1弾として、4月、若手ファッションクリエーター5名を米国へ派遣しました。1週間の日程で、世界の4大ファッション都市の一つであるニューヨークの若手クリエーターとの交流やファッション関連施設の訪問などをし、クリエーター自身の作品を通して、クール・ジャパンや日本文化の魅力を発信してきました。
帰国後、当事業のアドバイザーであり、長年ファッション業界のマーケティング・PRに携わっている、文化ファッション大学院大学准教授(ブランドニュース株式会社・代表取締役社長)首藤眞一氏をモデレーターにお迎えし、5人のファッションクリエーターによる報告会が開催されました。
ニューヨークでの発信、手ごたえ十分
首藤:まず、今回のKAKEHASHIプロジェクトで、ニューヨークで自分達のファッションを発信していく上での手ごたえや難しかったことを聞かせてください。
森下:今回持っていった作品は、主に日本で生産されたものが中心でしたが、素材、技術に注目していただいたことが感じられました。手仕事の作品も持っていきましたが、細かい作業に興味を持ってくださり、マーケットとして価格帯がそれほど高い設定ではないので、アメリカのマーケットでも受け入れられる価格帯だと評価されました。その価格帯で同じようなブランドだともっと規模が大きいところになるので、型数(商品のデザイン単位)やサイズを充実させていかないと拡がっていかないし、店にも入りにくいことを感じたので、バリエーションを増やして展開して発信できたらいいと感じました。
首藤:日本の強みであるクラフトマンシップ(職人技)や日本でしかできない素材などをアメリカのマーケットでもっと拡げられるのではないか。でも、アメリカで成功するにはある程度大量生産しなくてはならないので、生産やサイズの展開に合わせるのが難しいかなということですね。岩田さんはどうでしたか?
岩田:私が今回持っていったものは、日本的な染色方法やハンドクラフト的なものを前面に押し出したものと、定番で作り続けている、ミニマム(極度なまでにシンプルさを追求するファッション)ですがカッティングやシルエットにこだわったものです。ミニマムで普段着るようなカッティングにこだわった服がいいと言ってくださる方が多くて、嬉しかったし驚きました。日本は「かわいい」とか「子どもっぽい」ものが人気なのですが、ニューヨークはシンプルで大人っぽいものがたくさんあるので、その中で差別化をはかるのが大変だなと思ったし、価格も、高くても買う価値が一目でわかるものがないと大変だなと思いました。
首藤:日本の文化は、ファッションでも「禅」の世界のように研ぎ澄まされて無駄なものを省いたデザインが海外では非常にうけると聞いたことがありますが、そういう手ごたえは?
岩田:私の場合は、ハンドクラフト的なものより、カッティングにこだわった女性がきれいに見えるような物の方が、皆さんがいいと言ってくださいました。
江角:私は、日本らしさというより自分のブランドのスタイルがわかりやすいものを持っていきました。スタイルはできているので、ブランディング戦略をどう仕掛けていくかが重要だと言われました。百貨店のどこに置きたいのか、どういう価格帯で出したいのかといったことで、同じ目線で見てもらえたのかなと思う。納期とサイジング、話題性といった戦略をどのようにうまくやるかが重要だと感じました。
ヨーロッパでは必ずコンセプトを聞いてきますが、アメリカでは誰一人聞いてこない。ニューヨークでは、ビジネスはどうなっているか、価格はどうなっているか、リアルにどう着るかといったことを重要視しているのが伝わってきました。
手ごたえはよかったです。同じ期間にコンペがあり、ニューヨークのマーケットにエントリーしていたのですが、ファイナリストの3人に選ばれました。最終的には今回はだめだったのですが、ニューヨークから見ても評価はもらえるんだなと思いました。
どうやってどのタイミングで売るかというブランディングマネジメントの戦略をしっかりやっていきたいと思います。できそうだという可能性は見えました。
森川:私も、自分が作っている服を持っていきましたが手ごたえはよかったです。日本でも評価いただいていましたが、よりストレートにビジネスとして可能性があることも素直に言ってくださり、「間違っていなかったんだな」という感情を抱けました。今回のKAKEHASHIでの派遣プログラムのおかげで、7月にニューヨークの出店が決まりました。価格が上がっても通用するものを作らなくてはと思います。ジャケットが10万円近くになるので、それでも買いたいと思わせるものを作らなきゃいけないというのが今後の課題です。
ニューヨークで日本人の協力者とも出会え、わからないことだらけですが、挑戦することが大事かなと思います。
伴:私は、商品というよりブランドイメージのようなアイコンを持っていったのですが、プレゼンテーションのとき反応が良かったのが嬉しかったです。私の服は、「面白い」と思ってもらいたいところがあるので、手ごたえを感じました。
ただ、「実際洋服を作ると50万円するよ」「もっと洋服のことを知るべきだ」とコメントをいただいて、シビアで言葉も詰まる感じでしたが、プレゼンを見た人が笑ってくれたので自分の中では手ごたえを感じて、この方向で突き進んでいこうかなと感じました。
パーソンズ・スクール・オブ・デザインのホールでのプレゼンテーション
世界で、作る楽しさを共有したい
首藤:日本人の若手デザイナーが来るということで、パーソンズ・スクール・オブ・デザインにも300人ほどの人が来てくれましたね。ニューヨークのマーケットを見たり実際にアメリカ人と話す機会もあり、アメリカ人は日本のファッションに関してどのような印象や関心を持っていると感じましたか?
森下:アメリカに限らず、海外の方で日本のファッションについて何をイメージするかと聞くと、多くの方は、コム・デ・ギャルソン、ヨウジヤマモト、イッセイ・ミヤケなどアバンギャルドでブラックな感じのものが印象深いようでした。最近だとアンダーカバーのデザイナーである高橋盾(たかはし・じゅん)さんも注目されています。日本の若手があまり海外に行っていないのもあるかもしれないですけど。逆にミニマムな感じのものを持っていくと驚かれる。もっと構築的で複雑で細かい、ダークという印象を持っている人が多い。ミニマムなものが今っぽいと思うが、そういった日本らしさが入っているものに対して驚いていて、注目されている。「新しいことも日本ではあるんだね」と言われました。
江角:ソーホーのショップに行っていろいろな方とお話しすると、最終顧客からするとどこの国のデザイナーのブランドでもこだわっていないという感じですが、日本のファッションに対するキャラクターとして、たとえば、'メイド喫茶'や'アキバ'、'かわいい'とか、サブカルチャー的要素の印象はあると思います。実際、マーケットの中で何を買うかを見ていないので、印象ではありますが。マーケットの中でよく見たのはsacai(サカイ) 、アンダーカバーなど。技術面で特別日本製に注目しているというより、日本製だったらクオリティーがいいだろうなという感覚かなと感じました。
首藤:日本のデザイナーの服は、コム・デ・ギャルソンやヨウジヤマモト、sacaiなどパッと見てわかるような構築的なデザインだったりする。本来だったら日本の「美」はミニマムなものもあると思うけど、ファッションに関しては構築的なものというふうに捉えられていますね。アメリカには日本以上にブランドがある中で、アメリカ人にとって、日本のデザイナーだから魅力があると思っていると感じましたか?
森川:たしかに、いいものを作っているだろうけど、日本製だから買うというわけでもない。お客さんにとっては、着心地がいいと直感で思えばいい。日本製でなくても世界で着心地のいい服を作れる現場があればもっと楽しいと思うし、同じような技術をもっていたり新しいことにチャレンジしたいというところがあれば、作る楽しさを共有できれば一緒にものを作る価値はあると思います。
岩田:日本人のデザイナーだから買いたいというわけではないと感じました。日本のブランドが入っているところでは価格も高く、sacaiは日本では普段でも着れるようなデザインも人気がありますが、アメリカだと一目でわかる素材が凝ったものやディテール(細部のデザイン)が凝ったものが幅を占めていました。日本製だからというより価格が高くなる分それに見合った一目でわかる価値がないとダメなのかなと思いました。
パーソンズ・スクール・オブ・デザインでのオリエンテーションとアドバイザーからの作品評価
マーケットの違いを知ってビジネスチャンスに!
首藤:ニューヨークのファッションマーケットを実際に見て、今のニューヨークのファッションマーケットのトレンドや日本とアメリカのファッションマーケットの違いを学ぶことができたと思います。自分のブランドが、今の方向性でやっていって、アメリカで成功できる可能性があるのかどうか。それとも、もっとアメリカのマーケット寄りにクリエーションも変えていかなければならないのか。日本とアメリカのファッションマーケットの違いをどのように感じましたか?
森下:自由研究の日、ソーホー周辺や百貨店に行きました。百貨店では、日本にないドレスの売り場があったり、ブランドのセレクトアイテムもドレスやフォーマルっぽいものがあったり。日本ではそういうものは売れにくい。モードなフロアはお客さんは多くはなかったけど、海外で展開していく上ではドレッシーなものやTPOを考えたアイテムもあってもいいのかなと思いました。日本だと普段使いのものを作りますが、ワンピースのようなフォーマルな場所に着ていけるようなものも必要かなと思いました。
首藤:アメリカでの百貨店のブランドの並びと日本の百貨店のブランドの並びに違いは?
江角:ハイブランドは同じようなブランドが並んでいて、中盤が違っています。知らないブランドもあったし、現地でこれから流行しそうな感じのブランドもありました。ジェイソン・ウーやアレキサンダー ワンもしっかり取扱いされていました。売り場では、ハイエンドな売り場は高いのでお客さんもちらほらでしたが、コンテンポラリー(今のトレンドを取り入れたファッション)の店がにぎわっていました。コンテンポラリーのクオリティは日本の方が高いと思いました。でも、パッと見のデザインはアメリカは上手いし面白いなと。
首藤:メンズのマーケットはどうでしたか?
森川:マーケットで言うと、貧富の差が大きくて、買える人とそうでない人に分かれています。日本は中間層が多い。私はメンズを作っているけど、値段に対してシビアなものを作らないといけないと感じます。アメリカでは、いいメンズは値段は高くしていて、買える層は富裕層です。日本はそれが見えづらいので、中途半端に物を作ってしまいます。アメリカのマーケットでは割り切って高いものを持っていっても、小さなマーケットだけどアメリカという分母の中では受け入れられるのかなと思います。
首藤:ニューヨークを回って、このブランドはいいなと思うメンズはありましたか?
森川:ほとんど日本でも見ることができるので、目新しさは感じなかったけど、チャンスはあると思いました。日本のマーケットではメンズは特に厳しいので、その中で生き残っていかなくちゃと思います。
伴:街の様子を見ると、ファッションの街ニューヨークといいつつ、日本のようにバッチリ決めている人をあまり見かけないなと思いました。コム・デ・ギャルソンが売れているといっても、着てる人はいたんだろうか、どこで着ているんだろうと。
パーソンズ・スクール・オブ・デザインなどのファッション関連の専門学校の先生はトータルコーディネートしているけど、街では見かけないなと。パーティーなどで着ているのかなと疑問に感じました。
首藤:アメリカは階層社会で、それ相当な服や靴を着るシーンがあるんです。ニッチかもしれないけど、層は厚い。そういう人たちがニューヨークの街を歩いているかというとそうでもないですけどね。
岩田:プレゼンをしたときに、私のブランドで人気があったのは、いろいろなオケージョン(場面)で着れるカットソードレスでした。日本人だといろいろな機会に着られる洋服が買いやすいと言われますが、アメリカではそういうのがあまりないかな。商品構成も日本と違っています。レディースだと日本では体系カバーするものが買われますが、アメリカでは極端で、露出するものや、長さが短いか長いかで、中途半端なものはあまりないので、デザイン的なところでも違っているなと思いました。
ファッション関連施設を訪問し、作品評価をしていただきました
一歩踏み出せば手を差し伸べてくれる
首藤:ニューヨークでさまざまなファッション業界の人と交流をしましたね。今後の課題や、今回のプロジェクトの意義、どういうことを学んだかを聞かせてください。
岩田:海外でプレゼンすること自体初めてだったので、いい経験になりました。アメリカの人は思っていた以上にプレゼンしたことに対して矢継ぎ早に質問してきました。日本だとそういうことはなかった。例えば「ここのディテールは何故こうなっているのか」、「この服に対するあなたの日本人としてのアイデンティティは?」などと聞かれました。そして、その質問をされた人は「私はこう思うんだけど」と言ってきました。日本ではそういう状況はなかったのですが、アメリカではしっかり主張してくるなと。
首藤:海外でビジネスをするには、それは必要ですね。
森下:今までは、日本で生まれ育ってブランドを立ち上げて、ブランドを海外に持っていくことはなかったのですが、今回、海外の方から見た私のブランドのいいところ、悪いところを含めて意見を伺えたのが一番良かったです。たとえば、もう少しデザイン性を入れてもいいんじゃないかという意見もいただき、意見として受け入れています。海外の方は違った視点を持っていると思うので、今後に反映していきたい。
あと、プレゼン資料作成やプレゼン方法があまり得意ではなかったんです。今までは、ルックブックのように冊子で資料を作っていたのですが、大勢の方に見ていただくときには見づらいので、1枚で全体がわかるような資料を作りました。プレゼン能力が今後もっと必要になってくるのではないかと思います。
江角:ニューヨークは初めて行きましたが、まず大都会だと思いました。パワフルさ、貪欲さが感じられる街でした。ビジネス面では、敏感さ、能力の高さがあったので、勉強になりました。
ビジネス戦略的には、デザイン、クリエーションを高めないといけないなと思いました。ビジネス戦略、ブランディングは、大きなブランドの枠の中で多少現地に合わせるべきだと思います。ただ、ニューヨーク寄りにすると日本で売れなくなるし、ブランドのデザイン、クリエーションというところを上げることが必須で、次に、ニューヨークを見据えてやるのか日本のマーケットを確保しながらやるのかを決めて、そこに対するソリューションを持っていけばいいのかなと。
それから、デザインやクオリティを上げることに専念するためには、ビジネス戦略は、ビジネスパーソンに練ってもらうほうがいいのかな。日本は、パートナー制があまりなくて、デザイナーがビジネスを考えていますが、NYはパートナーがいると聞きます。そういうパートナーと出会うのが大事だと思いました。
森川:今回、初めて、自分の服を持っていけて、それに対して意見を言ってくれたり、手を差し伸べてくれることもあり、助けていただいた。何かを自分が一歩踏み出すと、それに対する答えがあって、それに対して先に進もうという感じでした。
今までは、「いいものを作って頑張っていきたい」という漠然とした感じだったけど、今回のようなきっかけがあって、海外で発表して大きく流れが変わって、それに対して、もう一歩前に出ようとしたときのリアクションがありました。意義があって、感謝してもしきれないくらいの気持ちです。
伴: 一番グッときたのは、パーソンズ・スクール・オブ・デザインのファッション学部長であるサイモンさんのプレゼンテーションの内容もすばらしかったのですが、「貸すペン1つにしても、それはあなたのデザイン」とおっしゃったことです。「ペンを貸してください」と言われて渡したペンが「あなた」なんだよと。「全てにおいてエレガントであれ」と。自分だったらどんなペンを貸すだろうと思って、今後、ファッション業界で自分がやっていくには、自分自身を見直したいと思いました。それから、今回のメンバーの皆さんと一緒にアメリカに行けて皆さんの興味深いお話を聞けたことが勉強になりました。
首藤:皆さんには、今後、世界を目指して日本のデザイナーの代表選手として羽ばたいていただきたい。KAKEHASHIプロジェクトでニューヨークに行った経験を大いに生かして、この機会に知り合った人脈も引き続き生かして、実りが結ぶ形で頑張ってください。
【参照記事】
Feature Story「世界に繋がるデザインを-若手デザイナー訪米」
左から、江角泰俊さん、岩田亜希子さん、首藤眞一さん、伴真由子さん、森川拓野さん、森下慎介さん
岩田亜希子(いわた・あきこ)saisir
ヨウジヤマモトで勤務後、2008年夏「saisir (セズィール)」ブランドをスタート。
江角泰俊(えずみ・やすとし)Yasutoshi Ezumi
2013年SS ANTEPRIMAとのコラボレーションラインANTEPRIMA + YEを、ミラノコレクションで発表。
伴真由子(ばん・まゆこ)Ban San
2009年株式会社アミナコレクション入社。14年独立。自身のブランド「Ban San」をスタート。
森川拓野(もりかわ・たくや)TaaKK
株式会社イッセイミヤケを経て独立。2012年森川デザイン事務所設立。13年トーキョー新人ファッションデザイナー大賞プロ部門支援デザイナーに選出される。
森下慎介(もりした・しんすけ)LAMARCK
自身のブランド「LAMARCK」をスタート。在学中にパリで開催されたフランス婦人プレタポルテ連盟主催「プレタポルテ・パリ」でランウェイショーを行う。
モデレーター:首藤眞一(しゅとう・しんいち)
文化ファッション大学院大学准教授、ブランドニュース株式会社代表取締役社長