四、古典落語の魅力は英語でも十分に伝わるものなんです

立川志の春




季節はもう初夏ですが、皆様いかがお過ごしでしょか? もとい、皆サマーいかがお過ごしでしょか? 書家の立川志の春です。あ、違いました、落語家の立川志の春です。あっという間にゴールデンウィークも過ぎてしまいましたが、皆様相変わらずのごがつやくのことと思います。

って、いくら何でも「ごがつやく」と「ご活躍」には無理がありましたね。
のっけからダジャレの連続になってしまいましたが、こういうダジャレって外国語に訳すと通用しないんですよね。そもそも日本語で通用しているかどうかは別としてです。

先月、今月と、インターナショナルスクールなどで、英語で落語をする機会が何度かありましたので、今回は英語落語について書こうと思います。

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去る5月14日に開催された富士通フォーラムの立食パーティで海外の来客に英語落語を披露。

だいたい英語で落語なんか通じるのか!? とお思いになる方は多いかもしれません。

「隠居さんこんちは!」
「おう八っつぁんじゃないか。まぁまぁお上がり」
「あ、どうもご馳走様です」
「なんだいご馳走様ってのは?」
「いえ、今隠居さん、まんまお上がりって」
「まんまじゃないよ。まぁまぁお上がりって、そう言ったんだ」

これ、よくある古典落語の出だしで、ボクシングでいうとジャブみたいな部分なんですが、英訳するの無理なんですよね。だって、これ直訳すると......。

"Hello, old man!"
"Oh is that you Hattsuan? Come on in."
"Wow, thanks for the treat."
"What do you mean, thanks for the treat?"
"Well, you just said, 'Have some rice,' old man."
"No, I didn't say 'Have some rice,' I said 'Come on in!'"

「おーい八っつぁん、どうしてしまったんだー!」という感じですよね。どう間違ってもあり得ない聞き違いですから、さっぱり意味がわかりません。「とりあえず耳鼻科に行っておいで」としか言いようがありません。
ですから英語で落語をやる場合、こういうところはさらっと飛ばしてしまうしかないんです。でも、だからと言って落語自体が通じないかというと、そんなことはないんです。

外国の方の前でやる時は、まず落語の説明から入ります。

「落語というのは日本の伝統的な話芸で、西洋のスタンダップコメディに少しだけ似ているけれども、座ってやるんです。ですからRAKUGOは、ジャパニーズ・トラディショナル・スタンダップコメディ・バット・シットダウンです」
「......ん? どっちなんだ!」
「座布団というクッションの上に座って、着物を着て、扇子と手ぬぐいだけを使ってやります。この扇子と手ぬぐいがお箸になったり刀になったり、財布になったり手紙になったりします」
「ワオ! マジック!」
「違う違う、本当になるわけじゃない、皆さんの想像の中でなるんです」

そんなことを言っておいた上で始めるわけです。
で、実際やってみると、これが伝わるんです。それも尋常じゃなく伝わるんです。大概。
「俺、天才じゃないか?」と思うくらい、日本語でやる時の300倍くらい受けるんです。

それはもちろん、彼らにとって初めてであるということや物珍しさ、一般的な日本人に対するイメージとのギャップ、というものも相まってのことでしょうが、それでも落語が受け入れられるのはとても嬉しいことです。
で、私は新作落語もやりますが、英語でやる場合、古典落語の方が確実に受けます。これ、もしかすると意外に思われるかもしれません。

古典落語というのは、時代の縦軸を300年近く生き残ってきているものなんです。これってすごいことですよね? 300年前の人達と、現代の我々が同じことで笑っているということです。それだけ普遍的な笑いだということなのでしょう。ですから同じ時代で海を越え、文化の違いを超える力も、古典落語には備わっているんです。

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昨年11月、ポーランド・ワルシャワ大学での三井物産冠講座にて講演及び落語を上演。

ダジャレは外国語では伝わらないかもしれない。若干、元々の風味は損なわれるかもしれない。でも、江戸の庶民から育まれてきた大らかな笑いで伝わるものはいくらもあります。それをできるだけ風味を損なわないように、もっともっとやっていきたいと思っています。

だって「日本人って面白くない」と言われたら腹が立つじゃないですか!





shinoharu00.jpg立川志の春(たてかわ しのはる)
落語家。1976年大阪府生まれ、千葉県柏市育ち。米国イェール大学を卒業後、'99年に三井物産に入社。社会人3年目に偶然、立川志の輔の高座を目にして衝撃を受け、半年にわたる熟慮の末に落語家への転身を決意。志の輔に入門を直訴して一旦は断られるも、会社を退職して再び弟子入りを懇願し、2002年10月に志の輔門下への入門を許され3番弟子に。'11年1月、二つ目昇進。古典落語、新作落語、英語落語を演じ、シンガポールでの海外公演も行う。'13年度『にっかん飛切落語会』奨励賞を受賞。著書に『誰でも笑える英語落語』(新潮社)、『あなたのプレゼンに「まくら」はあるか? 落語に学ぶ仕事のヒント』(星海社新書)がある。最新刊は『自分を壊す勇気』(クロスメディア・パブリッシング)。


*公演情報は公式サイトにて。
立川志の春公式サイト http://shinoharu.com/
立川志の春のブログ  http://ameblo.jp/tatekawashinoharu/




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