05『ゆきちゃん』 少年が初めて「死」と向き合う瞬間

大山慶



みなさんこんにちは。梅雨入りして雨の日が続く中、いかがお過ごしでしょうか。この時期になると、路地にミミズがはい出てくることがあり、気が気ではありません。僕はミミズが大嫌いなのです。

さて、今回ご紹介するのは、2006年に制作した『ゆきちゃん』です。この作品は、アニメーション映画生誕100周年を記念して企画された『TOKYO LOOP』というオムニバス映画のために作りました。

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『TOKYO LOOP』には、久里洋二さん、古川タクさん、田名網敬一さん、山村浩二さんなどアニメーション作家の大先輩方に加え、しりあがり寿さん、しまおまほさん、束芋さんなど他ジャンルの作家さんたちも参加しており、この企画に自分も参加できたことは、当時、学生だった僕にとって夢のような出来事でした。


『ゆきちゃん』はとてもシンプルなストーリーの映画です。残念ながら全てをお見せすることはできませんが、1分間に編集したダイジェスト版をまずはご覧ください。



僕は作品を作るとき、「理由はわからないけれど、どうしても作りたい」と思う一つのシーンをきっかけに、「このシーンに至るまでにどんなことがあったか」→「このシーンの後にいったい何が起こるのか」→「つまりこの映画はどのようなことがテーマとなっているのか」→「であるならば他に必要なシーンは何か」という順番で物語を考えていくことが多いです。前後の展開が決まっていないうちに、実際に作りたいシーンを作り出してしまうことも多々あり、『ゆきちゃん』の場合も『TOKYO LOOP』のお話しをいただいた時点で、すでにミミズをつつくシーンはほとんどでき上がっていました。

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尺は5分、テーマは「東京」、音楽は絵コンテをもとに山本精一さんがつけてくださるためこちらで自由に効果音などを入れられないなど、いくつかのルールがあったので、「ミミズをつつくシーンから始まる5分間のサイレント映画」を作るつもりで制作に取りかかりました。そして、その後の展開を考えていたとき、ふと、幼くして亡くなった親戚の女の子のことが頭をよぎったのです。

結果、この作品は、グロテスクなまでに力強く生きているミミズと、あっけなく死んでしまう少女、蚊を対比させながら、少年が初めて「死」と向き合う瞬間を描いたものとなりました。さらに、最後に蚊に刺された痕がうずく描写を入れることで、単なる悲劇以上のものになったのではないかと思っています。

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今回ご覧いただいた動画は細かく編集したものですが、本編はカット割りが一切ない1カット映画となっています。カメラは主人公の男の子の視点そのものにしており、誰かの「記憶」を覗き込むような作品になるよう意識して仕上げました。

ちなみに、ミミズの素材は自分の指、少女の顔には当時つき合っていた彼女の肌のテクスチャーを使っています。この作品でも『HAND SOAP』同様、使う素材に意味を込めていました。

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それでは今回はこの辺で。みなさんも梅雨時のミミズにはお気をつけください。





keioyama00.jpg 大山 慶(おおやま けい)
アニメーション作家 1978年東京都生まれ
2005年、東京造形大学の卒業制作『診察室』が学生CGコンテスト最優秀賞、BACA-JA最優秀賞などを受賞。カンヌ国際映画祭監督週間をはじめ、海外の映画祭に正式招待される。'08年には愛知芸術センターオリジナル作品として『HAND SOAP』を制作。オランダアニメーション映画祭グランプリや広島国際アニメーション映画祭優秀賞など多数の受賞を果たす。映画『私は猫ストーカー』('08)、『ゲゲゲの女房』('10)ではアニメーションパートを担当した。現在、自ら設立に加わったCALFに在籍し、制作、配給、販売など幅広くアニメーションに携わりながら、新作『放課後』を制作中。

公式サイト : http://www.keioyama.com/
CALF : http://calf.jp/
CALF STUDIO : http://calf.jp/studio/




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