河瀨直美
映画監督
韓国の4大映画祭として名を連ねるチョンジュ国際映画祭。この映画祭はデジタルプロジェクトと題して世界の監督に映画を制作してもらうという取り組みを10年以上続けている。その記念すべき第10回目の年に依頼を受け映画を制作した。低予算の上にウォンが暴落した時にあたり、契約時の半分しか円で入金されなかったので現場のスタッフはほぼ手弁当で作業にあたった。故に撮影日数は2日と過酷な現場である。
さて、韓国の資本で映画を撮るのだしワールドプレミア上映は韓国で行われるので、韓国と日本のつながりを描く作品になれればと構想を重ねた。奈良は大陸からの文化を直接受けた土地でもあり、渡来人の子孫であるという人も飛鳥や桜井という地域にはいらっしゃる。偶然にも親しくしていた知人の暮らす地域の名前が「狛」といって「高句麗」を意味する名であり、史述にそのことがはっきりと書かれているわけではないが、土地の人々からは不思議な祠の話や屋号に天皇を意味するような言葉が用いられていることなど聞かされ独自の物語を書き進めた。
こうして秋に撮影し出来上がった作品は春の韓国はチョンジュで上映された。多くの人々が共感してくださるいい作品になったと自負している。なによりも、「狛」という地域を紹介できたことはとても意義深いことだった。
チョンジュはソウルから車で三時間ほど走らなければいけない韓国でもソウルとプサンの真ん中あたりに位置する場所でなかなか日本人でさえ観光には行かない場所である。それだからか、韓国の古都として歴史的建造物が沢山あり、まっこりの発祥の地としても有名であると聞いて、なるほどここに文化が継承されてゆくことの意味を知った。またこの映画祭は多くの学生ボランティアが関わっていて、活気に満ちている。韓国に日本映画が紹介できるようになった年1997年はプサン国際映画祭が開催された。
「萌の朱雀」もこのとき北野武さんの「HANABI」とともに招待されている。これは日本映画がベネチアとカンヌで受賞した記念すべき年の開催であった。それから15年。いまや世界におけるアジア最大の映画祭として成長したプサン国際映画祭。それに続くチョンジュ国際映画祭。そして韓国映画は日本映画以上に世界からの関心を集めるものとなった。韓国は国を挙げて世界と映画を通してつながりを持とうと政策を打ち出し実現している。諸外国からの韓国での映画撮影には補助金も出ると聞いた。同じアジアの映画人として、隣国の取り組みを見るにつけ、日本の文化への支援を強化してゆく必要があると切に感じる。2009年にいただいたカンヌに貢献した監督に送られる賞はアジア人初であったということから、自らの役割を再度見つめなおす時期に来ているのかもしれないと感じている。
河瀨直美
生まれ育った奈良で映画を撮り続ける。
「萌の朱雀」(96)カンヌ国際映画祭新人監督賞を史上最年少受賞。
「殯の森」(07)カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。
「玄牝-げんぴん-」をはじめドキュメンタリー作品も多数。
自らが提唱しエグゼクティブディレクターを務める『なら国際映画祭』は今年9月14-17日に第2回を開催〈http://www.nara-iff.jp/〉。
奈良を撮りおろした作品「美しき日本」シリーズをWEB配信中〈http://nara.utsukushiki-nippon.jp/〉。
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