北京日本文化センター
小長谷 友香
世界第2位の日本語学習者を支える教師
中国で日本語を勉強している人は約83万人。この膨大な数の学習者に日本語を教える中国人の日本語教師はそれに対しおよそ15,600人(国際交流基金2009年日本語教育機関調査)。
国際交流基金の重要な仕事の一つとして、こうした海外で日本語を教える先生の研修があります。外国語を学んだ経験があるからといって、そのままその言語を学習者に分かりやすく、かつ興味を引き付けるよう教えることは容易ではありません。「教え方」も考えていく必要があります。
日本語教師の経験は様々で、日本に長期滞在経験のある方もいれば、日本に渡航した経験すら無い方、また、20年以上の教職歴がある方もいれば、先生になってまだ2,3年の「新米教師」もいます。
北京日本文化センターは日本語の教え方に日々悩みを抱え、奮闘されている日本語教師のサポートになるよう、「日本語の教え方」を研修する「教師研修会」をこれまでに開催してきました。
地域毎のニーズに応えたい
北京日本文化センターは、2011年11月より2012年3月にかけて、桂林(広西チワン族自治区)、重慶、長春(吉林省)、青島(山東省)、合肥(安徽省)、大連、済南(山東省)と中国の地方都市7カ所で、日本語教師を対象にして「地域巡回研修」を実施しました。これは新しい試みです。
広大な中国全土をカバーする大変さから、これまで、中国で実施する日本語教師研修は、中国各地から教師に集まってもらい、全国規模の研修会として開催していました。具体的には、2006年より毎年夏に1週間、国際交流基金と高等教育出版社との共催で、「全国大学日本語教師研修会」を開催し、例年、120名~150名の教師が参加しています。
また、日本を訪問しての研修としては、国際交流基金日本語国際センター(埼玉県)で毎年実施されている中国大学教師を対象とした2ヶ月間の研修に、毎年約40名の教師を送り出しており、1993年から現在まで延べ約750名の大学教師が訪日教授法研修に参加しています。また、そのほか、中等教育(中学・高校)の日本語教師を対象にした訪日研修(毎年20名)と国内研修会(春季、夏季の年2回)も実施しています。
しかし、中国の大学で日本語を教える教師は約9450名(同調査)。これらの1万人近い教師を対象にした教授法研修とネットワーク形成のためには、この全国研修会と訪日研修のみでは、十分な規模とは言えません。これが今回、地域巡回研修を企画した理由の一つでもあります。
教師が問題意識を持って授業にあたり、成長し続けるためには、新しい情報の提供や、自身の授業を振り返る機会、そして問題を共有できる教師仲間が集まる場を提供することが大きな意味を持ちます。それは、9450名の教師が接している53万人の学習者に対しても影響を与えることにつながるのです。
各大学のイニシアティブで企画された研修
中国での日本語教育のニーズに鑑み、北京日本文化センターに常駐する日本語専門家が2012年8月から3名に増えたことを機に、「各地域での教授法研修の開催に希望があれば、北京から専門家が出向いて講義をする」という旨の広報を、中国全土の大学に対して実施しました。開催するのは、あくまでも、それを必要と考える大学側であり、こちらから「近隣の高等教育機関3校以上、30人以上の教師の参加」という条件は出したものの、研修テーマは大学側が選択し、各参加校と連絡を取り合い、自主的に運営していただきました。
そうすることで、地域での日本語教育ネットワークが強化され、また、この機会に我々がその地域の日本語教育情報を収集するという、もう一つの重要な目的も果たせたと考えます。
3名の日本語専門家が同時に移動することで、教師研修の内容に幅ができ、多くの先生方と交流することができました。更に、希望に応じて、日本語を学ぶ学生を対象とした、新しい日本語能力試験の説明会や、国際交流基金が開発したウェブ教材『アニメ・マンガの日本語』を講義し、学生たちの動機づけにも役立ててもらいました。
中には、専門家の滞在中、学生が付きっ切りでケアをしてくれた学校もありました。学生にとっては、日本人と会う機会が大変限られている地域もあります。それでも、「日本語を学びたい」、「日本のアニメが大好き」、「日本に行ってみたい」という学生が中国のどこにでもいて、熱心に日本語を勉強しています。学生をアテンド役にさせた学校の先生は、生の日本語を体験させる機会にと、配慮されたのだろうなと想像すると、中国の先生方の温かな指導には本当に頭が下がります。
また、アテンドだけではなく、なんと歓迎会を開いて出し物を見せてくれるということで、それを直前に聞いた3人は急きょ移動中に歌と踊りを猛特訓し、お返しに披露するというエピソードもありました。
最初は開催の呼びかけに応じてくれる学校が出てくるか不安がありましたが、結果として全国の7校から手をあげていただきました。手を挙げていただいた学校からは、「専門家の旅費や参加費の負担がないこと、日程も、土日を利用して通常の授業に影響が出ないことが良かった」という声がありました。このように、遠くまで移動せず、地元で開催されるという参加のしやすさが、この巡回研修のメリットでもあります。中には私たちの予想をはるかに上回る参加希望が殺到し、多くても1回の研修会で70名~80名程度を想定した私たちにとっては、嬉しい悲鳴をあげつつも、これまでの研修会だけではやはり十分ではなかったことを反省させられるきっかけにもなりました。
2011年度の記録として、また来年の巡回研修につながることを目的に、主催校及び参加者の協力を得て小冊子を作成しました。主催校担当者や参加者から寄せられた感想から、現在中国の日本語教師が、自身の日本語教授法の向上に非常に熱心であること、また地域単位での日本語教育の発展のために、教師間や学校間のつながりを如何に重視しているかを感じていただけると思います。冊子は当センターのサイトで日本語・中国語ともにご覧いただけますので、ぜひ現場の先生方の生の声をお聞きいただければと思います。
今後も中国の日本語教育に携わる先生方が授業を磨くために交流する場を提供していく予定ですが、各地で自主的な実践研究会が発足する契機になれば、なお幸いです。
2011年度の実施実績は、次の通りでした。2012年度は、また別の地域で多くの先生が参加してくださることを期待しています。
桂林(実施日時:2011年11月3日~4日、会場:桂林理工大学、参加教師6大学・55名)
重慶(実施日時:2011年11月11日~12日、会場:四川外国語学院、参加教師12大学・56名)
長春(実施日時:2011年11月15日~16日、会場:吉林華橋外国語学院、参加教師16大学・142名)
青島(実施日時:2011年11月8日~19日、会場:中国海洋大学、参加教師9大学・68名)
合肥(実施日時:2011年11月25日~26日、会場:安徽農業大学、参加教師22大学・77名)
大連(実施日時:2011年12月10日~11日、会場:大連外国語学院、参加教師42大学・268名)
済南(実施日時:2012年3月16日~17日、会場:山東青年政治学院、参加教師11大学・49名)
中国における日本語教育の概要
http://www.jpf.go.jp/j/japanese/survey/country/2011/china.html