日本研究・知的交流部
アジア大洋州課
ヒト、モノ、カネ、情報の世界的な流通はグローバリゼーションとよばれ、私たちの生活に大きな変化をもたらしています。紛争のない世界を目指して、地域の統合化を進めていきたいという願いがある一方で、国・地域ごとの独特な文化を大切にしていきたいと思う多くの人々がいます。多様なアジアは、それぞれの固有の文化を保ちながら、アジア共通の価値観を育てることができるのでしょうか。
こうした問題意識のもと、国際交流基金(ジャパンファウンデーション)はボアオアジアフォーラムと共催して、2006年11月10日(金)にグローバリゼーション下におけるアジアの文化的アイデンティティについて考えるフォーラムを行ないました。
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フォーラムの模様
本フォーラムでは「グローバリゼーションとアジアの価値観」をテーマに、グローバリゼーションの進む現在においてアジアの文化的アイデンティティをどのように求めていくべきか、アジアの著名な知識人とともに考えました。会場には行政・自治体、学界、企業、市民活動関係者等約150名が参加し、パネリストの討議を熱心に聴講していました。
セッション1では、「グローバリゼーションと文化」というテーマについての発表とディスカッションが行なわれました。グローバリゼーションが持つ良い面と悪い面についての指摘がなされたあと、グローバリゼーションが進行する世界の中で、文化がどのように扱われているか、パネリストの方々の意見が述べられました。
そのなかでは、文化とグローバリゼーションが相反するものであるといった、批判論が出た一方で、創造性は異文化と異文化の遭遇から生まれるものであるため、グローバリゼーションが文化に対して良い影響を及ぼすのではないか、といった、希望的な論も出ました。
また、この問題については、歴史的文脈の中で考える必要があることや、文化と文化の相互理解のためには心情や感性のレベルで了解しあうことも重要である、といった提議がなされました。
セッション2では、「アジア共同体形成と価値観の共有」というテーマについての発表とディスカッションが行なわれました。まず、アジアとは何か、という点について、「アジアは既存のものではなく、今まさに作られている」という指摘や、「他者の存在によって自分を相対化すること」の重要さが強調されました。
そして、異なる文化が出会うときには、全て「翻訳」が可能であるという意識をもって、異文化間の積極的な対話が行われるべきであるといった意見が出され、異文化理解の重要性が強調されました。
また、アジア諸国における現在の活発な経済活動からすれば、企業法人、非営利事業法人、政府機関、非政府機関等、さまざまな主体が、相互の経済的利益を図りながらネットワークを形成し、緩やかな網の目状の協働体を構成することは可能であろう、という意見が出されました。
グローバリゼーションとは、文化がその元来の価値や意味を剥ぎ取られて、一つの経済的な商品として、世界市場に出て行くプロセスと考えることもできます。しかしながら、固有性と普遍性との衝突自体が、新しい創造的な文化活動を生んでいくということがあるかもしれません。今回のシンポジウムでは、こうしたグローバリゼーションとその価値観についての将来を考えるよい機会となりました。
ジャパンファウンデーションでは、アジアとしてこのような問題を熱心に討議し、その解決方法を主張していくこのような機会を、今後も大切にしていきたいと考えています。
(本フォーラムの報告書は2007年3月頃に出来上がる予定です。)