永田宏和(特定非営利活動法人 プラス・アーツ理事長)
国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、国際文化交流を通じて、日本と海外の市民同士の結びつきや連携を深め、相互の知恵やアイディア、情報を交換し、ともに考える団体に「国際交流基金地球市民賞」を授与しています。30周年を迎える2014年度は、プラス・アーツ、アメラジアンスクール・イン・オキナワ、なら国際映画祭実行委員会の3団体が受賞しました。プラス・アーツは、日本発の防災教育として、デザイン性やゲーム性を取り入れることにより、誰にでも親しみやすく体験できる仕組みを作り出し、世界各国での防災に対する認識を高めています。また防災を世界の共通テーマとして、日本と海外の市民同士の連携や相互理解を高めるモデルとなる活動であることが高く評価されました。
NPO法人プラス・アーツは、阪神・淡路大震災10周年の際に、兵庫県と神戸市から依頼を受けて開発した、子どもを中心とするファミリーが楽しみながら学べる新しい形の防災訓練プログラム『イザ!カエルキャラバン!』を神戸から他の地域に広めていくために設立しました。それから10年が経過し、昨年末の実績で、国内では21都道府県で延べ200回以上、同プログラムが開催されております。また、2007年のインドネシアでの実施を皮切りに始まった海外での開催支援実績も、これまでに14ヶ国を数えるまでに至っています。
特に海外での開催支援に関しましては、JICAと並び国際交流基金とパートナーシップを組んだプロジェクトがインドネシア、タイ、フィリピンなど近年増えており、情熱を持った熱い現地スタッフの方々との協働により大きな成果を生んでいます。
フィリピン版カエルキャラバン『MOVE PHILIPPINES』でのバニック(敷物)を使ったけが人搬送訓練
災害時にも役立つサバイバルな技を身につけるワークショップ「レッドベアサバイバルキャンプ」の缶バッジ、Tシャツ、軍手などのグッズ
国際支援プロジェクトにおける、私たちプラス・アーツのフィロソフィーとして「風、水、土の話」というものがあります。もう少し詳しくお話ししますと、国際支援プロジェクトを展開する際には、「風の人、水の人、土の人」という3つの人がいて、それぞれの人がそれぞれの作法を全うしなければならないという考え方です。「土の人」は土着という言葉があるように地域、現地の住民です。昔は「土の人」だけで地域活動はうまく回っていました。しかし今の時代、コミュニティーは希薄になり、防災を含めた社会問題は複雑になってきていて、「土の人」だけでは解決できない閉塞感が漂っています。そんな中で地域に刺激を与える存在として活動やイベントなどの"種"を運んでいくのが「風の人」です。私たちプラス・アーツは常に究極の「風の人」になりたいと考え、クリエイティブの力を注入し、地域の人たちがやってみたいと思って集まり、集まって来てみると参加して一緒に作ることができ、作り上げることで自分たちのものとして定着するような魅力的で多様な参加を促すプログラムを日々開発しています。ただ、私たちは「風の人」なのでいずれ地域を去らなければなりません。その時に重要な存在になるのが地域に居て、いい塩梅で種に水をやってくれる中間支援的な世話役としての「水の人」です。
「水の人」は役所で働く熱い職員や大学の先生、地域のことなら何でも知っている元気なおばちゃんなど、多様なジャンルの人たちが活躍していますが、先ほどご紹介した海外での防災教育支援プロジェクトにおいては、国際交流基金の現地スタッフがスペシャルな「水の人」として私たちのかけがえのないパートナーになっています。私たちはこの素晴らしいパートナーとの協働作業で多くのことを学び、そして私たちだけでは到底達成できなかった大きな成果を残すことができました。今後も国際交流基金と培ってきたノウハウを生かし、さらに発展させながら、世界の人々の防災力向上に引き続き貢献してゆきたいと考えています。
授賞の挨拶をするプラス・アーツ理事長の永田宏和氏
国際交流基金理事長の安藤裕康から賞状を受け取る永田宏和氏
最後に、皆様にすぐにできる防災の知恵をご紹介したいと思います。
それは、身につけられる防災グッズである「大判ハンカチ」です。50cm角程度の大き目のハンカチであれば、ケガをしたとき縛って止血したり、頭の後ろで結んでマスクの代わりとして粉塵からのどを守ったりと様々な使い方ができます。いつも身につけておけば、もしもの時に本当に役立ちますので、ぜひ皆様もいつも持っておいて頂ければ幸いです。
授賞の挨拶で「大判ハンカチ」を取り出し、身近な防災の知恵を紹介する永田宏和氏
(左)多くの親子連れで賑わうイザ!カエルキャラバン!の様子(イザ!カエルワールド! in 神戸)
(右)エルサルバドルでの" てこの原理" を用いた家屋の下敷きになった人の救出訓練
阪神・淡路大震災の教訓をもとに、デザインやアートの力を活用して「楽しく防災を学ぶ」プログラムを考案し、国内外でワークショップや展示を通じて普及活動を展開している。海外において現地のパートナーと協力し、現地のニーズに柔軟に対応したプログラムを実施しており、日本発の防災教育として海外でも広く受け入れられるようになっている。また、世界各国で防災に対する認識を高めている。