コラリー・キャステル
記念写真は、その文化をよく伝えてくれる。人類学的な視点から、人々がどのように写真に写っているかを調べていくと、その人の社会的なつながりや、思い出、時間の感覚について探ることができる。
日本では、記念写真を撮影する時は写真館に足を運ぶのがならわしであって、七五三、成人式、あるいは結婚式など、特別な機会に合わせて記念写真を撮影してきた。こうした写真は、ひとりひとりが家族の中でどの世代に位置づけられているのかがわかる、「家族写真」である。中根千枝*1 の言葉を借りるなら、私たちはこれを「タテ社会」の記念写真と呼ぶことができるだろう。こうした写真を撮ることで、人々は人生における大事なイベントのお祝いするのである。
一方、日本で独自に生まれた「プリクラ」は、これとは全く異なる性質を持つ写真である。若者に愛されるプリクラは、仲間同士で集合写真を撮ったり、友達関係を表現するための手段として用いられている。このため、プリクラで撮影される写真は「ヨコ社会」の写真と呼べるかも知れない。ここで重要なのは、日常的に起きる小さな出来事である。プリクラで撮影された写真は同じような仲間と共有されることから、東京都市大学の岡部大介教授をはじめとする研究者たちは、プリクラが「社会的な関係性を管理するための道具(Social Management Tool)」として利用されていると指摘している。
日本で生まれたプリクラの変遷について研究を始めてすぐに、ティーンエイジャーの女性をターゲットにして登場したプリクラが、日本の文化の一部となってすでに深く根付いていることに気がついた。実際、10代の頃にプリクラを利用していた現在の若い親たちは、家族写真としてプリクラを利用しているのだ。また、私は20代、30代、40代、さらにそれ以上の世代の男女を対象にインタビュー調査を行ったが、この調査の結果、記念写真を撮影するための手段がますます多様化していることが浮き彫りになった。技術は目覚しい進化を遂げている今、その主流となっているのはデジタルカメラやカメラ付き携帯電話である。電子メールを使って写真を簡単に送れるようになったことは、写真を共有する習慣に大きな影響を与えた。写真を無数に複製し、デジタル化する技術は、個人のアイデンティティ表現と思い出を保存するプロセスに、どういった影響を与えるだろうか?
伝統的な写真館が次々と姿を消している一方で、新しいタイプの写真館も登場している。例えば、最近では子どもの写真撮影を専門に請け負うスタジオに人気が集まっている。「プリクラ」の文化では、利用者が写真にスタンプや背景を自由に加えて楽しむ。こうした感覚は、子どもの写真撮影を専門に請け負う写真館で、子どもにミッキーマウスの絵柄の付いた衣装を着せて撮影してもらう母親の心境と関係がないだろうか? あるとすれば、最先端の撮影機材を使って自己表現しようとする現代日本の人々に共通する、一般的な傾向に説明がつくかもしれない。調査を進める中で、こうした問いかけが自分の中に起きたのだった。
ポートレートを撮影し、それを楽しむ方法は千差万別であっても、それが何かを「記念する」ためであることには変わりはない。こうした新しい習慣を通して、社会的な記憶はどのように表現されるのだろうか? 今日の日本で撮影されているポートレートの中に見て取れる、新しい形の「記念」写真について解明することは、進化する技術の流れに沿って、親族の絆、記憶、および人と人がどのように繋がっているのかを理解する一つの方法なのだ。
*1 「タテ社会の人間関係-単一社会の理論」(1967年)の著者
コラリー・キャステル(Coralie Castel)
フランス、ナンテール大学の社会人類学博士課程。パリ第三大学東洋文化学院(INALCO)で日本の言語と文明に関して学士号を取得し、ナンテール大学で社会人類学の修士号を取得。国際交流基金フェロー。