ジャマイカでアニメーターを育成しよう!

須田 正己(アニメーター、キャラクターデザイナー)



 国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、日・カリブ交流年および日本・ジャマイカ外交関係樹立50周年を記念し、海外巡回展「キャラクター大国、ニッポン」展のジャマイカでの開催を機に、2014年8月、アニメーターでキャラクターデザイナーの須田 正己氏をジャマイカに派遣し、アニメーションやキャラクター文化を切り口として制作技術やビジネスモデルに関する講演会・ワークショップ、アニメファンが集うイベントでのトークショーを開催しました。ジャマイカから帰国した須田氏に、ジャマイカでの人々との交流、今後のアニメーション産業の展望などについてお聞きしました。

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ジャマイカ色で溢れる町並み



――初の南米訪問とのことですが、今回の依頼を受けられたときはどのように感じられましたか?
須田:「ジャマイカ、とは?」という大きなクエスチョンマークがつきました。ボブ・マーリー、レゲエ音楽、ブルーマウンテンしか知らなかったので、まずジャマイカとはどういうところか少し調べましたね。でも、絶対ここは自分の旅行では行かないなという思いと、以前とても楽しかったイタリアに雰囲気が似ているように感じて、今回のジャマイカ行きを決めました。

――以前、ジャマイカのボブスレー映画をご覧になったことがあったそうですが、渡航後のジャマイカの印象はいかがでしたか?
須田:町並みもきれいで、日本車が多く、日本好きという印象でした。日本に好意的らしいですね。街は西洋化していて、雰囲気はオーストラリアの街に似ていました。日本と同じように車が左側通行ということで、親近感が沸いて、何の抵抗もなく馴染めました。それから、女性がダイナミックでした。

――ご本人から見た参加者の反応や手ごたえはいかがでしたか?
須田:イベントには若い人たちが大勢来て、みんな笑顔が可愛かったです。真剣に楽しんでいました。コスプレイベントでは、キャラクターに思い入れがあるようで、みんな完全になりきっていて、心から楽しんでいるという感じでした。熱意やコンテストなども他の国と違いませんね。コスプレイベントに700人以上集まっているっていうのはやはり熱意があるのでしょう。

animator_jamaica02.jpgのサムネール画像
©Marcus Bird
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アニメファンが集うイベントでの作画実演とサイン会には大勢の人がかけつけました

――今回、「ジャマイカらしいキャラクターを作ってください」という課題を参加者にご用意していただきましたが、ワークショップはいかがでしたか?
須田:ジャマイカでいくつもイベントに参加しましたが、個人個人のいろいろな作品が見られたということでは、ワークショップはおもしろかったです。参加者が次から次へと見せてくれて、作品は短いけれど、それぞれの課題があったり、おちがあったりして、けっこう笑いました。
個人的には、躍動感がある作品をイメージしていましたが、実際は、コンピューターで描いている人が多かったようです。紙にぶつけるというのがないと躍動感は自然には出てきません。だから、できるだけ紙に描いてくださいと参加者に話しました。絵に関しては、多少描いて指導するなどしながら、「こうしたらいいよ」「もっとはっきりシャープに描いたほうがいいよ」とアドバイスをすることもありました。これから本格的に作るようになれば、それはそれで楽しいものが作れると思いますよ。
ワークショップを通して、僕自身もいい刺激を受けましたね。日本的なものを描く人たちもいるけれど、いろいろな人がいろいろな絵を描いている。みんな競ってやっているのでしょう。全体的に、参加者の作品からはジャマイカ色を感じました。カラーだけじゃなくて、画の質も含めて。日本ではこのカラーリングはないな、と思うこともあって、強烈な印象でした。
参加者の中には、本格的な活動をしている人もいます。そういう人たちが、ジャマイカのアニメーション産業の中心になっていくといいのではないでしょうか。彼らの作品をいろいろな人に見てもらいたいですね。

――同じアニメーターの卵であっても、日本とジャマイカでは違うと思うのですが、イベントを通してどのように感じられましたか?
須田:日本のアニメーションはもう完成した産業だから、若い人が飛び込むのは大変です。だから、日本のアニメ産業の底上げをしなければと思っています。このままでは若手がいなくなって、日本のアニメ産業が確実になくなってしまうと危惧しています。
アニメーションは文化の発信源であり、文化として海外の人も注目しているので、日本の人々にもっと真剣に考えて大切にしてほしいと思っています。日本のアニメーション業界に入る人が増えて、若手アニメーターが続けていけるように環境を整えないといけない。もっともっと活気のある場所になってほしいと強く思っています。 一方のジャマイカでは、アニメーションがそれほど産業になっていないからこそ、まだみんな夢があって楽しんでいるという印象。楽しんでやろうという気持ちがありました。今回の参加者の多くも、大学などで勉強しながら、個人的にアニメーションに取り組んでいるようでした。でも、ジャマイカでは、大学などで勉強した人は海外に出て行ってしまうそうです。だから今回参加していた人が、果たしてその業界に残るかどうかは分かりません。ジャマイカにはアニメーションの産業がないので、一度海外に出てしまうと、ジャマイカにはもう戻らないそうです。そうせざるをえないのでしょう。しかし、今ジャマイカのアニメーション業界で頑張っている会社もありますし、日本もなにか教育のお手伝いができればと思います。若手の流出こそが、ジャマイカの問題で、やはりみんな心配しているところですね。

――ジャマイカのアニメーション産業はまだまだ発展途上ということですが、実際訪れてみていかがでしたか?
須田:ジャマイカ発のアニメーションというのはまだありません。カナダやマレーシアの会社からCM作成を請け負っているようです。ジャマイカにはCMを作るような大きな会社もないので、海外から請けるしかないのでしょうが、小さいものでもジャマイカ発の何かを作れるようになるといいと思います。
今は下請けなので、部分的に制作を担当していますが、海外の下請けを続けていくうちに作品が認められて、「すべてジャマイカで作ってほしい」という発注が海外からそのまま来るようになるといいですよね。ジャマイカには十分その可能性があると思うので、これからアニメーション産業を作って、他の国々の中心になるようになればいいなと思っています。クリエーターが育つのはこれからですからね。

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(左)アニメーターを目指す学生と
(右)日本への留学経験があるジャマイカ人と


――ところで、今回の参加者の中には、日本のアニメに感化されてアニメーターを目指している人が多かったかと思いますが、先生がアニメーター/キャラクターデザイナーになられたきっかけは何ですか?
須田:小さいころは、親ではなく、学校の先生や他の人にほめられるとやる気になるものですよね。ぼくも物心がついたときから絵を描いていて、やはり人から上手いと言われていたから、絵を描いてあげると人が喜ぶと思ったのでしょう。それに、小学生のとき、手相占いとかでその方向に行くと言われたことがありまして、その気になっていたのだと思います。そういう経験は印象に残っていて、大人になってからそういう道に進むこともありますよね。
アニメーター/キャラクターデザイナーになったきっかけは、ガッチャマンなどの原画を描いて動かしたりしていたころに、もっと楽しいことがしたいなと思っていたことですね。もっと違うことがしたいなということで、キャラクターの仕事を始めて、今までいろいろなものを手がけてきました。

――海外のアニメーションイベントにもご出席されているようですが、海外に発信したいという思いが強いのでしょうか?
須田:もともと、ぼくらは海外をターゲットにアニメーションをやってきたわけではありませんでした。でも、海外の人が自国に持ち帰ることで人気が出て、結果として海外で広まったことで、海外に出て行くようになりました。海外では、昔の作品も人気のようですよ。今後も、海外に広まってほしいという思いはありますね。やはり、今回ジャマイカで出会った参加者やスタジオの今後には興味があります。

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ビジネスマン向けのワークショップに参加した人たちと

――アニメーションを作る上で、大切だと思われることは何ですか?
須田:子供たちが分かるようなアニメーションを作っていかなければならない。アニメーションを見て育った人が、制作する側になりました。すると、思い入れが強くて入れ込みすぎて、明るい作品もダークな世界になって、違う作品に仕上がってしまう。だから、子供向けの、子供でも見られる、音楽がついているアニメーションらしい、みんなが見られるような作品を作るべきだと思います。もちろん、深夜アニメのような、マニアックなものを作ってもいいと思うけれど、その中に子供も大人も見られるようなものがあるべきです。

――アニメがどういう存在であってほしいですか?
須田:ヒットした漫画をアニメーション化するというのが最近多いですよね。でも、本来、アニメーションというのは、まずアニメーションキャラクターを作ってから制作されるべきだと思います。たしかに、アニメーション制作はお金がかかるから、データとしてこれだけ売れるという保証がないとビジネスは始めにくい。でも、アニメーションにそういうデータがなかったとしても、もっと冒険してほしい。
今は映画なども漫画や雑誌を映画化していますよね。リメイクするお金があるなら、自分で作ったほうがいいのではないでしょうか。自分たちの発想でものを作ってほしいという思いはありますよ。失敗したくないからそういうデータに頼る、これが一番日本の弱いところですね。もっとアニメーションからものをつくってほしいですね。
ぼくなんかはキャラクターを作って、キャラクタービジネスをしてきました。キャラクターを作ってなんらかの形で人気が出て、キャラクターの人気でアニメーションをつくるのはいいと思います。それが理想ですよね。そのために、ぼくは可愛いキャラクターもいろんなキャラクターも作って、「みんながやりたいな」と思う、なにかの可能性を求めています。実際、若い連中も、ぼくに「やろうよ」と声をかけてきました。はじめはアニメーションをやろうと考えていなくても、キャラクターの人気が出たら何が起こるか分からないですよね。妖怪ウォッチも良い例だと思います。最近ぼくによく声がかかるのは、そういうかわいいキャラクターを作ってくれるのではないか、何か起きるのではないかという期待があるからでしょうね。やはりみんな、そういう可能性をおもしろいと思っているわけですよ。

――先生自身が楽しんでいらっしゃるというのが伝わってきますね。
須田:楽しいですよ。やはり楽しんでいないと楽しいキャラクターは作れません。今までもそうだったように、楽しさがすべてだと思っています。みんな、そういう思いを持っているのではないでしょうか。これからも、子供から大人までみんなが楽しめるものをやりたいですね。

――今後、どんなことに挑戦したいですか?
須田:今は、少しアニメーションから離れたところで、アプリのキャラクター作成や日本の伝統文化とのコラボレーションなどの企画に取り組んでいます。アニメーションに携わっていたころは、ものすごく忙しくて、人と会う時間なんてほとんどありませんでした。でも、3年位前にアニメーションの大きな仕事一つを終わらせてから、1年間ゆっくりしようと思っていろいろな人と交流を始めたら、「須田さん何かやりましょうよ」とみんな話を持ってくる。今はまだ始まったばかりだからものになるかならないかは分からないけれど、ぼくのアニメーションを見て育った若い人も含めて、そういう企画が2~3年前から始まりました。
でも、やはり、日本のアニメーションのことも心配ですね。みんな年取っていくわけだから、業界は若い人がいないと成り立ちません。日本のアニメーション業界を支えることは一人でできることではないけれど、ぼくらも若いときからやってきましたし、助言はできると思っています。もっとアニメーターになる若い人たちが増えてくれるといいなというのは強く思いますね。

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ガッチャマンの作画が完成しました





animator_jamaica07.jpg 須田 正己(すだ・まさみ)
アニメーター、キャラクターデザイナー。1943年生まれ。1960年代から現在までフリーで活動を続ける、日本アニメ界を代表するアニメーター兼キャラクターデザイナー。 タツノコプロや東映アニメーション等の作品を中心に 「科学忍者隊ガッチャマン」「みなしごハッチ」「キューティーハニー」「北斗の拳」「魁!!男塾」「SLAM DUNK」「遊☆戯☆王」など数々の人気作品を手掛ける。 現在もテレビ東京系列で放送されているTVアニメ「妖怪ウォッチ」のキャラクターデザインを手掛けている。



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