蜜屋本舗 明神宜之
吉はし 吉橋慶祐
香雲堂本店 小泉直哉
● この記事は前回からの続きです・・・↓
若手職人が初挑戦! 和菓子の魅力を東南アジアへ【前半】
――3カ国目のフィリピンはいかがでしたか?
小泉:フィリピン・マニラでは、1日目は料理学校Center of Culinary Arts(以下、CCA)の先生と生徒向けにワークショップを、2日目は一般向けにレクデモを行いました。3カ国目ということもあり、スムーズに出来たと思います。
ワークショップに参加したCCAの生徒さんは、製菓コース在籍の10~20代の若い方で、とても意欲的で元気でした。説明のときにも夢中でどら焼きを焼いていたり、和菓子の写真をたくさん撮っていたり、みなさん作ることに非常に興味を持っているのが分かりました。和菓子の道具はどこで購入できるかといった質問もありました。
ワークショップは、参加者が14人と比較的少なかったため、みんなのペースに合わせて進行し、間近で和菓子を見せながら教えることが出来ました。
仕込みの時、生徒さん数名が手伝ってくれましたが、作業をしながらお互いに質問や話がたくさん出来、充実した時間を過ごせました。
吉橋:ワークショップでは、1つ1つの作業に対し、常に興奮気味に話し合う声が聞こえ、良い意味で驚きを与えられたと思います。
打菓子やハサミ菊は、洋菓子にない技術なので、CCAの生徒さんも初体験のようでしたが、どら焼きは上手に作っていました。
ただ抹茶の味や抽象的な意匠の菓子については、いまひとつ理解を得られなかった感があり、残念でした。そこにこそ和菓子の本質があると考えている自分にとっては、参加者が納得できるような説明ができず、少しやり残した思いがあります。
明神:フィリピン2日目のレクデモは、今までで一番リラックスして臨めたと思います。また内容的にも、今回の和菓子紹介イベントの最後を飾る良い出来になりました。
レクデモの会場は、タイの会場をやや小さくしたくらいのオープンスペースでした。用意されていた100席はすべて埋まる盛況ぶりで、立ち見のお客さんも多数いました。
マレーシアでのイベントと同様、和菓子の実演毎に会場から希望者を数名募り、観客を代表して和菓子作りに挑戦していただきました。この方法だと、時間調整がしやすく会場も盛り上がります。 おかげで時間いっぱい質問が出ました。
――客席に質問をされたそうですね。
明神:レクデモ来場者のほとんどが現地の方でしたので、日本に行った経験があるか尋ねてみました。3分の1くらいの人があるとの答えで驚きました。
小泉:どら焼きを食べたことがあると答えた人は、5人でした(笑)。
マニラでのワークショップの様子
マニラでのレクデモの様子
――和菓子の作り手としては、現地のお菓子も気になるところだと思います。
小泉:事業の合間をぬって、スタッフの方々に現地のお菓子も案内していただきました。タイでは、オールドサイアムのタイ伝統菓子を見ることが出来、とても勉強になりました。マレーシアとフィリピンでは、ショッピングモール内の菓子店を見学し、また地元のお菓子を食べる機会もありました。
訪問した3カ国では、寿司や天ぷら、ラーメンといった日本食レストランはよく見かけましたが、和菓子を取り扱う店はほとんどなく、現地で作った本格的な和菓子とも出会いませんでした。しかしマレーシアの日本料理レストランでは、バナナフレーバーを加えたどら焼きや、きな粉の代わりにピーナッツ粉末をかけて味わう安倍川餅など、現地の嗜好に合わせてアレンジされた和菓子が提供されていて、味も美味しく興味深かったです。
日本で一般的に好まれるのは小豆の風味がある餡ですが、タイの会場では、タイの人は風味のあるものより風味のないほうを好むという話も聞くことができました。現地ではココナッツやバナナなどのフレーバーのお菓子を多く見かけたので、小豆餡そのものの味より、餡にフレーバーで風味付けして食べるほうが一般的なのかもしれません。その点で、今回、小豆本来の味を現地の方に試食してもらえたことは非常に良かった点だと思います。各会場で実際に美味しいと言っていただけましたし、フィリピンでは「小豆がこんなに美味しいとは知らなかった」との感想もいただきました。
マレーシアでは、取材の際、記者の方にディスプレイの和菓子を見せてお気に入りはどれか尋ねてみたところ、ピンク色の花を指す人が多かったです。
オールドサイアムで出会ったタイ伝統菓子(撮影:小泉直哉氏)
――和菓子に取り入れてみたい現地の食材はありましたか?
小泉:3カ国すべてフルーツの種類が多く安価でした。これらを利用して和菓子作りができたら、きっと美味しいお菓子が作れると思います。例えば、旬のフルーツを使って、イチゴ大福みたいなものを作れたら面白いと思いました。
吉橋:興味深かったのは、ヤシの実から作られた砂糖です。日本の黒糖の風合いに近かったので、ヤシの実の砂糖を黒糖の代わりに使った時、似て非なる味になりそうです。
他にも、日本の鶏卵素麺のような南蛮菓子が、東南アジアでも一般的なお菓子として食べられていたので、それぞれを比較した上で、互いの良さを掛け合せることができると面白いと思いました。
――最後に、東南アジアでのイベントを終えた感想をお願いします。
小泉:今回のイベントを通して、自分自身多くのことを勉強させていただきました。和菓子の大切さを伝え、美味しい和菓子を作る責任を感じる一方で、現地でも和菓子を勉強したい人がいることを知り、とても嬉しく思いました。
吉橋:日頃から伝統的な和菓子を作ることを誇りに思っていますが、今回の経験を通して、その思いは一層強まりました。
明神:今回は若手メンバーでの構成でしたが、逆に「若い」ということで現地メディア等から注目される機会が多く、取材でも「若い世代と伝統との関係」にスポットをあてた質問が多く寄せられました。また、各会場で和菓子のレシピをもっと知りたいという希望も聞かれ、海外向けの和菓子本を出してみてはと薦められることもありました。
今回の和菓子紹介イベントが、和菓子の魅力を伝えるだけでなく、日本と東南アジアとの文化交流、さらには各国の菓子文化の発展につながれば幸いです。
2012年2月11日から15日、日本の伝統の味であり芸術ともいわれる和菓子を紹介するために、タイ(バンコク)、マレーシア(クアラルンプール)、フィリピン(マニラ)の3カ国3都市にて、全国和菓子協会推薦の若手和菓子職人が紹介イベントを開催しました。
http://www.jpf.go.jp/j/culture/human/dispatch/supportlist23_o_s.html
●お知らせ
東南アジアでの和菓子紹介イベントについて、明神氏、小泉氏、吉橋氏による帰国報告会を開催
日時:2012年5月29日(火)18:30~20:30(開場18:00)
会場:国際交流基金JFIC
東京都新宿区四谷4-4-1
http://www.jpf.go.jp/j/culture/new/1205/05-01.html
左より、吉橋慶祐、小泉直哉、明神宜之
■プロフィール
明神宜之
1982年生まれ。東京製菓学校和菓子科卒業。広島・呉銘菓「蜜饅頭」で知られる「蜜屋本舗」勤務。日本菓子協会東和会最優秀技術会長賞(年間グランプリ)。全国和菓子協会認定「優秀和菓子職」
吉橋慶祐
1982年生まれ。東京製菓学校和菓子科卒業。日本三大菓子処の1つ金沢を代表する和菓子店「吉はし菓子所」勤務
小泉直哉
1982年生まれ。東京製菓学校和菓子科卒業。歴史の街・足利の創業百余年の老舗和菓子店「香雲堂本店」勤務