ロンドン日本文化センター
かつて日本の象徴といえばキモノ、フジヤマ、ゲイシャの3点セットでしたが、今やマンガ、アニメ、ゲーム、ファッションといったポップカルチャーが、現代日本を象徴しているようです。日本文化のイメージは世代交代し、海外で日本文化に関心を持つ層も、若者を含む一般大衆や個人へと広がりました。
このような状況下で、文化交流による国際的な相互理解を図るには、世代や社会環境の違い、個人の多様な関心や好みを前提にした、工夫をこらした切り口を提供することが求められます。それでは、より多くの人々に「日本に関心を持ってもらう=日本文化への敷居を低くする」にはどうしたらいいでしょうか。
昨年、ロンドン日本文化センターでは、人間生活の基本要素である「衣・食・住」を通して、日本文化を紹介するプロジェクトを行いました。ここでは、特に好評だった、食べ物や食生活を手がかりとして日本文化を味わう「食」のプロジェクトを中心に、いくつかご紹介したいと思います。
ひとつは、日本から精進料理専門家の棚橋俊夫氏を迎えた「精進料理」レクチャー(2010.9.16)です。ロンドンには、日本食レストランが数え切れないほどあり、日本食はヘルシーなイメージに留まらず、上品な雰囲気を提供するというステータス性と、庶民的なメニューを気軽に楽しむことのできる大衆性、その両方のイメージを獲得しているようです。このレクチャーでは「精進料理」が持つ哲学性と技の妙、そして食材に注目し、それらについての講話と試食を行いました。ロンドンの人々にとって、非常に珍しいトピックということもあり大変好評で、日本の食文化をより深く味わってもらえたのではないかと考えています。
「精進料理」レクチャーでの試食は大変好評
また、英国各地を巡回する劇映画上映会では、昨年度のラインアップに『かもめ食堂』という作品を選びました。この作品は、北欧のとある街にある小さな日本食屋さんを舞台に、食べものが結ぶ縁と、そこに集う日欧の人々の交歓を描いています。
さらに、12月に行われた日本大使館との共催映画祭 「Premier Japan」 では、やはり食をテーマにした作品『南極料理人』を上映。そして今年1月には、「テイストオブジャパン」と銘打って「食にまつわる日本語・日本文化1日体験味試し(テイスター)講座」を実施しました。
なお、ロンドンでは2年目を迎えた「ジャパン祭」が昨年9月に開催され、5万人が来場したとのことです。同じ年の秋には、若者を主要ターゲットにした「ハイパージャパン」というフェアもスタートし、いずれも日本食の出店がたいへんな人気を得ていました。人間の基本要素である「食」の訴求力と魅力が、いかんなく発揮された例と言えるでしょう。
そのほかに、「衣」の分野を代表するものとしては、ヨーロッパ最大の文化施設であるバービカンセンターで、「日本のファッション30年」展を2010年秋に実施しました。
「住」の分野では2010年1月に、建築デザイン専門誌編集長Vicky Richardsonによる日本の現代建築トークを、12月には日本研究フェローDr. Ingeらによる日本家屋のレクチャーを行いました。後者は2011年3月から8月まで、現物・再現展示で知られるジェフリーミュージアムで開催されている「At Home in Japan」展の関連企画でもあります。
また公共建築の領域では、英国ビクトリア&アルバートミュージアムのスコットランド分館建設コンペで建築家隈研吾氏のデザインが選ばれ、ニュースになりました。
ますますセグメント化する現代社会において「衣・食・住」の3要素は人間としての基本共通項(ベーシックス)であることに変わりはありません。今後もユニークな着眼点を探しながら、これらベーシックスを大切にしていきたいと思います。