2024.5.2
【特集081】
特集「ASEANにおける人的交流とエンパワーメント」(特集概要はこちら)
日本ASEAN友好協力50周年を迎えた2023年、国際交流基金でもさまざまなイベントやワークショップを開催しました。
ところでそもそも、ASEAN加盟国ってどの国?それぞれの国の文化って?そして今どうなっているの?
考えてみると意外と知らないことも多いのではないでしょうか。そんな、ご近所なのに実は知らないASEAN最新事情を、現地駐在の国際交流基金職員のとっておき話とともにご紹介します。
ASEAN(Association of Southeast Asian Nations/東南アジア諸国連合)は現在、
東南アジアの10か国が加盟する地域共同体。
国際交流基金ではそのうちの8か国に拠点を置き、各国との交流を深めています。
【面積】 5,770km²
【人口】 約43万人(2021年推定値)
【首都】 バンダルスリブガワン
【政治体制】 立憲君主制(ハサナル・ボルキア国王)
【主な言語】 マレー語、英語
【主な宗教】 イスラム教
【通貨】 ブルネイ・ドル
【地理】
ボルネオ島の北西海岸に位置する三重県と同程度の面積の国。豊かな地下資源に恵まれているため、医療費や教育費はすべて無料で所得税もなく、国民の高い生活水準を維持している。
【歴史】
14世紀末、王がイスラム教に改宗して初代スルタンに。マゼラン入港後、サバ州、サラワク州(現在のマレーシア)やフィリピン南部まで領有したが、その後英国の保護領となり、1984年に独立。
【主要産業】
石油、天然ガス生産。全輸出額の中でも、鉱物性燃料(石油・液化天然ガスなど)と化学製品が95%以上占める。現在は、エネルギー産業依存からの脱却を目指し、経済の多角化を進めている。
【日本との関係】
日本はブルネイにとって、天然ガスの約8割を輸出する主要な貿易相手国。日本にとってもブルネイは重要なエネルギー供給国にあたる。技術協力、教育・文化面でも活発な交流がある。
【面積】 181,040km²
【人口】 約1583万人(2021年推定値)
【首都】 プノンペン
【政治体制】 立憲君主制(ノロドム・シハモニ国王)
【主な言語】 クメール語
【主な宗教】 仏教
【通貨】 リエル
【地理】
ASEAN10か国のほぼ中央に位置。メコン川に接し、東南アジア最大の湖であるトンレサップ湖を擁する。北部国境地帯を中心に広大な森林が広がることから「森林の国」とも呼ばれる。
【歴史】
1970年代には、クメール・ルージュ政権による自国民の大虐殺など内戦に苦しんだが、1991年に和平を実現、1993年に総選挙を経て新政府を樹立。
【主要産業】
肥沃な国土を背景とした農業が盛ん。アンコール・ワットやアンコールトムなど、世界遺産登録済みの遺跡を中心とした観光も重要な産業となっている。
【日本との関係】
朱印船貿易時代には日本町が作られるなど古くから交流。1980年代の内戦からの和平プロセスにも関わり、現在はアンコール遺跡の保存修復活動にも協力している。
語る人:田中 晴輝 職員
カンボジア駐在歴 約4年。5歳と2歳の2人を子育て中のパパでもある。
カンボジアの今...トゥクトゥクもアプリで呼べる時代!
ほかのASEAN諸国同様、カンボジアも近年大きく発展していて、とくに首都プノンペンの生活は日本と変わりません。カンボジアの乗り物といえば「トゥクトゥク」という三輪車タクシーが有名ですが、今ではすっかりキャッシュレスが浸透し、トゥクトゥクもアプリで呼ぶことができます。小売では日本のイオンが進出済みで買い物にも便利。ちなみにカンボジア料理は白米がすすむおかずが多く、辛さもないので日本人の舌に馴染みやすく、そういう意味でも日本人にとって暮らしやすいと感じます。
経済面では、大卒で企業に就職する人は日本の大卒者と同レベルの給料をもらっている人もいるほどですが、さまざまな分野で技術、知識、経験を必要としているのも現実。逆に言えば、すでに成熟してきている国と違ってチャンスが多い社会とも言えます。
内戦の歴史が今も大きな爪あとを残している
カンボジアは1970年代に内戦を経験していますが、その影響は、アーティストの作品にも表れています。戦時下に苦しむ人を描いた絵画作品など、今でも内戦をモチーフとしたものが多いのです。内戦は約50年前のことですが、20代の若いアーティストであっても同様の傾向が見られるのは、親世代が内戦を経験しているせいなのでしょう。カンボジアが内戦の影響から解放されるには、もうしばらく時間がかかりそうです。
一番知られている日本のアニメは『クレヨンしんちゃん』
日本に対しては、内戦後のインフラ整備など、ODAを通じて「とてもよくしてくれた国」という印象を持っている人が多いです。内戦で破壊されてしまった伝統的な文化、たとえば焼き物や織物、胡椒栽培など、さまざまな分野で復興に尽力した日本人がいて、その名前もよく知られています。
現代の文化としてはやはりアニメ作品が人気で、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などがよく知られています。中でも最も知名度が高い作品といえば、ほかのASEAN諸国では『ドラえもん』だと思うのですが、面白いことにカンボジアでは断然『クレヨンしんちゃん』が有名なのです。
実は日本で2021年に公開された劇場版では、カンボジアの制作会社もスタッフとして参加。ところがこの作品はカンボジアで上映されず、制作スタッフも見ることができませんでした。そこで2022年、国際交流基金が主催する日本映画祭でこの作品を上映。制作スタッフの皆さんはもちろんのこと、「自国の制作会社が『クレヨンしんちゃん』を作っている」ことを知ったファンの皆さんにも喜んでもらうことができました。
「カンボジア日本映画祭 2022」
必要なのはハードより「教えてくれる人」
内戦中には多くの国民が虐殺されましたが、とくに知識人が多く犠牲になったため、文化や教育を受け継ぐ人がいなくなってしまい、それらはすべて失われてしまいました。日本の学校であれば当たり前の図工や音楽といった教科は、今もカンボジアにはありません。
そんな中で切実に求められているのは「教えてくれる人」です。よく、ボランティアが学校を建ててくれる話がありますが、カンボジアでは、せっかく建物があっても、教える人がいなかったり先生のお給料が支払えなかったりして、廃墟になってしまっている例も。日本式の学校教育は、生徒自身に掃除をさせる、給食を通じて食育を行うなどの点も含めて非常に注目されているので、現地に入ってこうした教育を提供する人がいれば間違いなく喜ばれると思っています。
産業面でも同様に、求められる技術を習得できる場がないのが現状です。前述のアニメ制作などもようやく産業となりつつある分野ですが、試行錯誤を繰り返しつつ自分たちで学んでいる状態。先日、国際交流基金で日本のアニメーター、イラストレーターを招いて実施したワークショップは大いに歓迎されました。
争いを好まないカンボジア人が隣国タイと一触即発!?
仏教を尊ぶ気持ちがあるせいか、カンボジアの人はみんなやさしく穏やかで争いを好みません。人をだます、ぼったくるという感覚があまりなく、財布でもスマホでも落としたものはきちんと戻ってくることが多いです 。
そんなカンボジアですが、最近、隣国タイと大喧嘩になりかけた出来事がありました。それはSEA Games(東南アジア競技大会)というスポーツの国際大会でのこと。2023年、初めて開催国となったカンボジアが、タイが国技と位置づける格闘競技「ムエタイ」について、発祥はカンボジアであるとして「クンクメール」という名称を採用したのです。このことにタイが激しく反発し、一時は大会ボイコットを表明するほどの騒動になりました。
とはいえやはり、基本は穏やかで優しいのがカンボジアの人々。とくに子連れで生活していると、誰もが子供を宝として扱ってくれるのを感じます。家族で食事をしていると、「私たちが子どもを見ているからゆっくり食べなさい」なんて言ってくれることも。私自身、ここで2人の子どもを育てていますが、子育て世代には本当に暮らしやすい国だと感じています。
【面積】 1,916,862km²
【人口】 約2億7224万人(2021年推定値)
【首都】 ジャカルタ
【政治体制】 大統領制、共和制
【主な言語】 インドネシア語
【主な宗教】 イスラム教
【通貨】 ルピア
【地理】
人口はASEAN最大(世界4位)、国土面積もASEAN最大。赤道に沿った14000以上の島々からなる。首都ジャカルタのあるジャワ島の面積は国土全体の7%だが、そこに全人口の6割が集中している。
【歴史】
旧オランダ領だった地域が集まって「インドネシア共和国」として独立した経緯がある。それぞれの民族が固有の言語を持っているが、交易言語として使用されていたインドネシア語が独立の際に公用語となった。
【主要産業】
最も比率が高いのは製造業。とくに二輪車(バイク)製造には国としても力を入れてきた。パーム油、ゴム、米など農業も盛ん。
【日本との関係】
日本はインドネシアにとって重要な輸出相手国。逆にインドネシアは、石炭や液化天然ガスなど日本にとって欠かせないエネルギーの供給国でもある。日本国内で働くインドネシア人も多く、外国人労働者数伸び率では2位。
語る人:河野 美紗子 職員
インドネシア駐在歴 約2年半。学生時代にインドネシアにおける宗教教育に関して研究し、毎年インドネシアを訪問していた。
若くて勢いのある、ASEANのリーダー的存在
現在のインドネシアの印象を一言で言うなら、「若くて、勢いがある」です。人口構成でも若い人が多く、約20年間、ほぼ毎年5~6%という高い経済成長を続けるなど急速に発展中で、日本社会が持つ成熟して落ち着いた雰囲気とは正反対のものを感じます。
私が赴任してからの2年半の間にも街はどんどん変わっていて、特に交通インフラの変化は目覚ましいものがあります。ちなみに、鉄道では、日本政府のバックアップもあり、ジャカルタの南北を走る地下鉄MRTの開通のほか、日本で使われていた中古の鉄道車両が地上の在来線KRLでもたくさん使われています。日本の田園都市線の中古車両などがインドネシアを走っているのを見るのはちょっと面白いですよ(笑)。
ASEANの事務局もインドネシアの首都ジャカルタにあり、インドネシアがASEANを引っ張る存在であるというプライドを感じます。2023年にはASEAN議長国も務め、地方の町でもあちこちで「ASEAN」の看板をたくさん見かけました。
インドネシア=バリというイメージはちょっと違うかも?
日本でインドネシアというと、まずバリを思い浮かべる人が多いと思うのですが、そのイメージでインドネシアを捉えるのは少し違うかもしれません。宗教一つとっても、バリの宗教はヒンドゥー教ですが、インドネシアは、全体としては世界一ムスリム(イスラームを信仰する人)の多い国。首都ジャカルタや第2の都市スラバヤの住民も、バリは別の国のような印象をもっていることも多いです。
ジャカルタとバリのこうした違いだけでなく、インドネシアは全体にとても多様性に富んだ国です。国土はアメリカ合衆国と同じくらい東西に幅広く、タイムゾーンも3つに分かれているほど。そこに、大きく分けただけでも300以上の民族が、特有の文化を保ちながら暮らしています。そして、それぞれが民族固有の言語を大事にしながら、公用語であるインドネシア語を話しています。
そもそもインドネシア語も、交易に使われていたマレー系の言語をもとに、より多くの人が習得しやすいよう易しくアレンジされた言語です。多様だからこそ互いに尊重し合うことを大切に、一つの国としてのまとまりを目指しているのがインドネシアなのです。
識字率、高等教育率のアップとともに増す宗教の存在感
多様とはいえ、宗教については現在、国民の9割近くがムスリム。とくに最近は宗教の復興が目立ち、より敬虔なムスリムが増え、女性のヒジャブ着用率は上がり、選挙に立候補する政治家なども、「自分がいかにイスラームの教えに敬虔か」をアピールするほどです。
こうした傾向は、識字率が上がり、高等教育率が上がるのと比例して強まってきました。正確な理由はわかりませんが、自分でクルアーン(イスラム教の聖典。日本では「コーラン」とも認識されている)を読もうとする人が増えたことも一因かもしれませんね。
インドネシアにおいて、宗教は今でも社会の中でも大きな役割を果たしています。現地の人の身分証明書には必ず信仰している宗教が記載されますし、インドネシアを訪れる日本人も、頻繁に何の宗教を信仰しているか聞かれます。日本で日々自分が何の宗教を信仰しているか、強く意識する人は多くはないかと思いますので、インドネシアで聞かれてもびっくりしないでくださいね。
日本語、日本文化への親しみは強く、「日本で働きたい人」も年々増加中
実はインドネシアでは、中等教育の第2外国語として、日本語が選択可能になっています。そんな事情もあって、インドネシアは、世界で2番目に日本語学習者が多い国となっています。
文化面では、ほかのASEAN諸国同様日本のポップカルチャーが浸透しています。根強い人気を誇るのがドラマ『おしん』で、TVで何度も再放送され、今の30代前後の若い層にもよく知られています。アニメでは『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『NARUTO』『ONE PIECE』などのほか、『呪術廻戦』や『SPY FAMILY』で日本を知って国際交流基金を訪れてくれる高校生も。最近はK-POPや韓流ドラマなど韓国の人気も高まっていますが、日本のコンテンツもまだまだ人気はあります。日本食についても、日本のチェーン店が数多く進出しているほか、現地資本のお寿司やタコ焼きの店もあって親しまれています。ただし、タコ焼きの中身はソーセージだったりしますけどね(笑)。
また、「日本で就職したい」という人は今も年々増加しています。経済が低迷している日本ではありますが、インドネシアではまだまだ「日本は経済、技術が進んでいる国」というイメージが変わらずあります。また安全、観光面でも魅力的なこともあり、多くのインドネシア人が送り出し機関に登録して、日本での就労に向けて日々勉強を頑張っています。
人々がエネルギーに満ち、多様な文化が共存する国
繰り返しになりますが、インドネシアの人々の印象はとにかく「若い」!国際交流基金のオフィスにも約50人のインドネシア人スタッフがいますが、新年会では急に踊りだしたり、走り出したりとエネルギーに満ちていました。人との距離感が近いのも特徴で、タクシーに乗り、運転手さんが延々話しかけてくるのを聞いていると、インドネシアだなあと思います。
ASEAN諸国の中で意識しているな、と感じるのは、同じように発展著しいタイやマレーシア。とくにマレーシアには、地理的にも近いことから、バティック(伝統的なろうけつ染めの布)はどちらのものか?という論争などが存在します。
個人的にぜひ知っていただきたいのはやはり多様性ですね。とくに宗教については、アニミズムに始まり、ヒンドゥー教、仏教、イスラム教と時代ごとに伝わった宗教がそれぞれ残っていて、東南アジア最大のモスク、イスティクラル・モスク(イスラム教)、ボロブドゥール(仏教)、プランバナン(ヒンドゥー)など、多様な宗教建築に触れることができます。ぜひ日本の方にも訪れてみていただきたいですね。
【面積】 236,800km²
【人口】 約737万人(2021年推定値)
【首都】 ビエンチャン
【政治体制】 人民民主共和制制
【主な言語】 ラオス語
【主な宗教】 仏教
【通貨】 キップ
【地理】
ベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、中国の5つの国と国境を接するASEAN唯一の内陸国。南北に流れるメコン川により、水資源に恵まれた豊かな自然がある。人口の5割はラオ族だが、そのほか約50の民族が暮らしている。
【歴史】
14世紀にランサーン王国として統一。その後フランスのインドシナ連邦に編入され、1953年に完全独立。その後内戦期を経て1975年ラオス人民民主共和国が成立。計画経済により経済発展が遅れたが、1986年から市場経済の導入と開放経済政策を進めている。
【主要産業】
主要産業は農業で、とくにコーヒーは重要な輸出農産品。観光産業にも力を入れている。
【日本との関係】
日本はODA(政府開発援助事業)の一環として、世界遺産に登録されているワット・プー遺跡の保護・保存のための無償協力、橋や道路などのインフラ整備などを行っている。
語る人:日下部 陽介 所長
長らくロシアを担当してきたが、2022年6月よりラオス担当に。現在その魅力にすっかりハマっている。
今のラオス...世界的にも少なくなった「いい田舎」が残る国
私が暮らす首都ビエンチャンには大規模なショッピング・モールがいくつもあり、生活に不便を感じることはありません。カフェやレストランも、びっくりするほどセンスのいい店があって、食べ物もおいしいです。高級車も走っていますし、電気自動車の割合は日本よりむしろ高い気がします。
しかし、ラオスの個性を一言で表すならばやはり「いい田舎」。今、世界中でいい田舎がどんどんなくなっている中で、外国人がラオスを訪れるのは、まさにそこが求められているのだと思います。ビエンチャン市内であっても、少し路地に入ると、トタン屋根の下でガラス容器に入った駄菓子を売っている店などもあり、日本の「昭和」を思わせるレトロな雰囲気が残っています。
女性が強い国のようにも感じます。店などを仕切っているのは女性が多く、男性は道端で賭け事に興じていたり、トゥクトゥクの運転手は日陰に車を止め、客車にハンモックを吊って寝ていたりします。ちなみにラオスのトゥクトゥクは、バイクが6人掛けくらいの粗末な客車を引っ張るようなものが多いです。
植民地時代の宗主国だったフランスの文化も残っていて、バゲットやクロワッサンはローカルの店でも普通に売られています。政治はベトナム、経済はタイの影響が強いと言われていますが、2021年にはビエンチャンと中国の昆明を結ぶ高速鉄道が開通し、中国との結びつきが深まっているようです。