ASEANにおける人的交流とエンパワーメント <1>
現地駐在職員が語る 最新!ASEANってこんなところ
ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア編

2024.5.2
【特集081】


特集「ASEANにおける人的交流とエンパワーメント」(特集概要はこちら)

日本ASEAN友好協力50周年を迎えた2023年、国際交流基金でもさまざまなイベントやワークショップを開催しました。
ところでそもそも、ASEAN加盟国ってどの国?それぞれの国の文化って?そして今どうなっているの?
考えてみると意外と知らないことも多いのではないでしょうか。そんな、ご近所なのに実は知らないASEAN最新事情を、現地駐在の国際交流基金職員のとっておき話とともにご紹介します。

ASEANとは?

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ASEAN(Association of Southeast Asian Nations/東南アジア諸国連合)は現在、
東南アジアの10か国が加盟する地域共同体。
国際交流基金ではそのうちの8か国に拠点を置き、各国との交流を深めています。

ブルネイ・ダルサラーム国

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【面積】 5,770km²
【人口】 約43万人(2021年推定値)
【首都】 バンダルスリブガワン
【政治体制】 立憲君主制(ハサナル・ボルキア国王)
【主な言語】 マレー語、英語
【主な宗教】 イスラム教
【通貨】 ブルネイ・ドル

【地理】
ボルネオ島の北西海岸に位置する三重県と同程度の面積の国。豊かな地下資源に恵まれているため、医療費や教育費はすべて無料で所得税もなく、国民の高い生活水準を維持している。

【歴史】
14世紀末、王がイスラム教に改宗して初代スルタンに。マゼラン入港後、サバ州、サラワク州(現在のマレーシア)やフィリピン南部まで領有したが、その後英国の保護領となり、1984年に独立。

【主要産業】
石油、天然ガス生産。全輸出額の中でも、鉱物性燃料(石油・液化天然ガスなど)と化学製品が95%以上占める。現在は、エネルギー産業依存からの脱却を目指し、経済の多角化を進めている。

【日本との関係】
日本はブルネイにとって、天然ガスの約8割を輸出する主要な貿易相手国。日本にとってもブルネイは重要なエネルギー供給国にあたる。技術協力、教育・文化面でも活発な交流がある。

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カンボジア王国

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【面積】 181,040km²
【人口】 約1583万人(2021年推定値)
【首都】 プノンペン
【政治体制】 立憲君主制(ノロドム・シハモニ国王)
【主な言語】 クメール語
【主な宗教】 仏教
【通貨】 リエル

【地理】
ASEAN10か国のほぼ中央に位置。メコン川に接し、東南アジア最大の湖であるトンレサップ湖を擁する。北部国境地帯を中心に広大な森林が広がることから「森林の国」とも呼ばれる。

【歴史】
1970年代には、クメール・ルージュ政権による自国民の大虐殺など内戦に苦しんだが、1991年に和平を実現、1993年に総選挙を経て新政府を樹立。

【主要産業】
肥沃な国土を背景とした農業が盛ん。アンコール・ワットやアンコールトムなど、世界遺産登録済みの遺跡を中心とした観光も重要な産業となっている。

【日本との関係】
朱印船貿易時代には日本町が作られるなど古くから交流。1980年代の内戦からの和平プロセスにも関わり、現在はアンコール遺跡の保存修復活動にも協力している。


現地駐在の国際交流基金職員が教える
カンボジアとっておき話

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語る人:田中 晴輝 職員
カンボジア駐在歴 約4年。5歳と2歳の2人を子育て中のパパでもある。


カンボジアの今...トゥクトゥクもアプリで呼べる時代!
ほかのASEAN諸国同様、カンボジアも近年大きく発展していて、とくに首都プノンペンの生活は日本と変わりません。カンボジアの乗り物といえば「トゥクトゥク」という三輪車タクシーが有名ですが、今ではすっかりキャッシュレスが浸透し、トゥクトゥクもアプリで呼ぶことができます。小売では日本のイオンが進出済みで買い物にも便利。ちなみにカンボジア料理は白米がすすむおかずが多く、辛さもないので日本人の舌に馴染みやすく、そういう意味でも日本人にとって暮らしやすいと感じます。

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経済面では、大卒で企業に就職する人は日本の大卒者と同レベルの給料をもらっている人もいるほどですが、さまざまな分野で技術、知識、経験を必要としているのも現実。逆に言えば、すでに成熟してきている国と違ってチャンスが多い社会とも言えます。


内戦の歴史が今も大きな爪あとを残している
カンボジアは1970年代に内戦を経験していますが、その影響は、アーティストの作品にも表れています。戦時下に苦しむ人を描いた絵画作品など、今でも内戦をモチーフとしたものが多いのです。内戦は約50年前のことですが、20代の若いアーティストであっても同様の傾向が見られるのは、親世代が内戦を経験しているせいなのでしょう。カンボジアが内戦の影響から解放されるには、もうしばらく時間がかかりそうです。


一番知られている日本のアニメは『クレヨンしんちゃん』
日本に対しては、内戦後のインフラ整備など、ODAを通じて「とてもよくしてくれた国」という印象を持っている人が多いです。内戦で破壊されてしまった伝統的な文化、たとえば焼き物や織物、胡椒栽培など、さまざまな分野で復興に尽力した日本人がいて、その名前もよく知られています。

現代の文化としてはやはりアニメ作品が人気で、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などがよく知られています。中でも最も知名度が高い作品といえば、ほかのASEAN諸国では『ドラえもん』だと思うのですが、面白いことにカンボジアでは断然『クレヨンしんちゃん』が有名なのです。

実は日本で2021年に公開された劇場版では、カンボジアの制作会社もスタッフとして参加。ところがこの作品はカンボジアで上映されず、制作スタッフも見ることができませんでした。そこで2022年、国際交流基金が主催する日本映画祭でこの作品を上映。制作スタッフの皆さんはもちろんのこと、「自国の制作会社が『クレヨンしんちゃん』を作っている」ことを知ったファンの皆さんにも喜んでもらうことができました。

「カンボジア日本映画祭 2022」


必要なのはハードより「教えてくれる人」
内戦中には多くの国民が虐殺されましたが、とくに知識人が多く犠牲になったため、文化や教育を受け継ぐ人がいなくなってしまい、それらはすべて失われてしまいました。日本の学校であれば当たり前の図工や音楽といった教科は、今もカンボジアにはありません。

そんな中で切実に求められているのは「教えてくれる人」です。よく、ボランティアが学校を建ててくれる話がありますが、カンボジアでは、せっかく建物があっても、教える人がいなかったり先生のお給料が支払えなかったりして、廃墟になってしまっている例も。日本式の学校教育は、生徒自身に掃除をさせる、給食を通じて食育を行うなどの点も含めて非常に注目されているので、現地に入ってこうした教育を提供する人がいれば間違いなく喜ばれると思っています。

産業面でも同様に、求められる技術を習得できる場がないのが現状です。前述のアニメ制作などもようやく産業となりつつある分野ですが、試行錯誤を繰り返しつつ自分たちで学んでいる状態。先日、国際交流基金で日本のアニメーター、イラストレーターを招いて実施したワークショップは大いに歓迎されました。


争いを好まないカンボジア人が隣国タイと一触即発!?
仏教を尊ぶ気持ちがあるせいか、カンボジアの人はみんなやさしく穏やかで争いを好みません。人をだます、ぼったくるという感覚があまりなく、財布でもスマホでも落としたものはきちんと戻ってくることが多いです 。

そんなカンボジアですが、最近、隣国タイと大喧嘩になりかけた出来事がありました。それはSEA Games(東南アジア競技大会)というスポーツの国際大会でのこと。2023年、初めて開催国となったカンボジアが、タイが国技と位置づける格闘競技「ムエタイ」について、発祥はカンボジアであるとして「クンクメール」という名称を採用したのです。このことにタイが激しく反発し、一時は大会ボイコットを表明するほどの騒動になりました。

とはいえやはり、基本は穏やかで優しいのがカンボジアの人々。とくに子連れで生活していると、誰もが子供を宝として扱ってくれるのを感じます。家族で食事をしていると、「私たちが子どもを見ているからゆっくり食べなさい」なんて言ってくれることも。私自身、ここで2人の子どもを育てていますが、子育て世代には本当に暮らしやすい国だと感じています。


インドネシア共和国

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【面積】 1,916,862km²
【人口】 約2億7224万人(2021年推定値)
【首都】 ジャカルタ
【政治体制】 大統領制、共和制
【主な言語】 インドネシア語
【主な宗教】 イスラム教
【通貨】 ルピア

【地理】
人口はASEAN最大(世界4位)、国土面積もASEAN最大。赤道に沿った14000以上の島々からなる。首都ジャカルタのあるジャワ島の面積は国土全体の7%だが、そこに全人口の6割が集中している。

【歴史】
旧オランダ領だった地域が集まって「インドネシア共和国」として独立した経緯がある。それぞれの民族が固有の言語を持っているが、交易言語として使用されていたインドネシア語が独立の際に公用語となった。

【主要産業】
最も比率が高いのは製造業。とくに二輪車(バイク)製造には国としても力を入れてきた。パーム油、ゴム、米など農業も盛ん。

【日本との関係】
日本はインドネシアにとって重要な輸出相手国。逆にインドネシアは、石炭や液化天然ガスなど日本にとって欠かせないエネルギーの供給国でもある。日本国内で働くインドネシア人も多く、外国人労働者数伸び率では2位。


現地駐在の国際交流基金職員が教える
インドネシアとっておき話

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語る人:河野 美紗子 職員
インドネシア駐在歴 約2年半。学生時代にインドネシアにおける宗教教育に関して研究し、毎年インドネシアを訪問していた。


若くて勢いのある、ASEANのリーダー的存在
現在のインドネシアの印象を一言で言うなら、「若くて、勢いがある」です。人口構成でも若い人が多く、約20年間、ほぼ毎年5~6%という高い経済成長を続けるなど急速に発展中で、日本社会が持つ成熟して落ち着いた雰囲気とは正反対のものを感じます。

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私が赴任してからの2年半の間にも街はどんどん変わっていて、特に交通インフラの変化は目覚ましいものがあります。ちなみに、鉄道では、日本政府のバックアップもあり、ジャカルタの南北を走る地下鉄MRTの開通のほか、日本で使われていた中古の鉄道車両が地上の在来線KRLでもたくさん使われています。日本の田園都市線の中古車両などがインドネシアを走っているのを見るのはちょっと面白いですよ(笑)。

ASEANの事務局もインドネシアの首都ジャカルタにあり、インドネシアがASEANを引っ張る存在であるというプライドを感じます。2023年にはASEAN議長国も務め、地方の町でもあちこちで「ASEAN」の看板をたくさん見かけました。


インドネシア=バリというイメージはちょっと違うかも?
日本でインドネシアというと、まずバリを思い浮かべる人が多いと思うのですが、そのイメージでインドネシアを捉えるのは少し違うかもしれません。宗教一つとっても、バリの宗教はヒンドゥー教ですが、インドネシアは、全体としては世界一ムスリム(イスラームを信仰する人)の多い国。首都ジャカルタや第2の都市スラバヤの住民も、バリは別の国のような印象をもっていることも多いです。

ジャカルタとバリのこうした違いだけでなく、インドネシアは全体にとても多様性に富んだ国です。国土はアメリカ合衆国と同じくらい東西に幅広く、タイムゾーンも3つに分かれているほど。そこに、大きく分けただけでも300以上の民族が、特有の文化を保ちながら暮らしています。そして、それぞれが民族固有の言語を大事にしながら、公用語であるインドネシア語を話しています。

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そもそもインドネシア語も、交易に使われていたマレー系の言語をもとに、より多くの人が習得しやすいよう易しくアレンジされた言語です。多様だからこそ互いに尊重し合うことを大切に、一つの国としてのまとまりを目指しているのがインドネシアなのです。


識字率、高等教育率のアップとともに増す宗教の存在感
多様とはいえ、宗教については現在、国民の9割近くがムスリム。とくに最近は宗教の復興が目立ち、より敬虔なムスリムが増え、女性のヒジャブ着用率は上がり、選挙に立候補する政治家なども、「自分がいかにイスラームの教えに敬虔か」をアピールするほどです。

こうした傾向は、識字率が上がり、高等教育率が上がるのと比例して強まってきました。正確な理由はわかりませんが、自分でクルアーン(イスラム教の聖典。日本では「コーラン」とも認識されている)を読もうとする人が増えたことも一因かもしれませんね。

インドネシアにおいて、宗教は今でも社会の中でも大きな役割を果たしています。現地の人の身分証明書には必ず信仰している宗教が記載されますし、インドネシアを訪れる日本人も、頻繁に何の宗教を信仰しているか聞かれます。日本で日々自分が何の宗教を信仰しているか、強く意識する人は多くはないかと思いますので、インドネシアで聞かれてもびっくりしないでくださいね。


日本語、日本文化への親しみは強く、「日本で働きたい人」も年々増加中
実はインドネシアでは、中等教育の第2外国語として、日本語が選択可能になっています。そんな事情もあって、インドネシアは、世界で2番目に日本語学習者が多い国となっています。

文化面では、ほかのASEAN諸国同様日本のポップカルチャーが浸透しています。根強い人気を誇るのがドラマ『おしん』で、TVで何度も再放送され、今の30代前後の若い層にもよく知られています。アニメでは『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『NARUTO』『ONE PIECE』などのほか、『呪術廻戦』や『SPY FAMILY』で日本を知って国際交流基金を訪れてくれる高校生も。最近はK-POPや韓流ドラマなど韓国の人気も高まっていますが、日本のコンテンツもまだまだ人気はあります。日本食についても、日本のチェーン店が数多く進出しているほか、現地資本のお寿司やタコ焼きの店もあって親しまれています。ただし、タコ焼きの中身はソーセージだったりしますけどね(笑)。

また、「日本で就職したい」という人は今も年々増加しています。経済が低迷している日本ではありますが、インドネシアではまだまだ「日本は経済、技術が進んでいる国」というイメージが変わらずあります。また安全、観光面でも魅力的なこともあり、多くのインドネシア人が送り出し機関に登録して、日本での就労に向けて日々勉強を頑張っています。


人々がエネルギーに満ち、多様な文化が共存する国
繰り返しになりますが、インドネシアの人々の印象はとにかく「若い」!国際交流基金のオフィスにも約50人のインドネシア人スタッフがいますが、新年会では急に踊りだしたり、走り出したりとエネルギーに満ちていました。人との距離感が近いのも特徴で、タクシーに乗り、運転手さんが延々話しかけてくるのを聞いていると、インドネシアだなあと思います。

ASEAN諸国の中で意識しているな、と感じるのは、同じように発展著しいタイやマレーシア。とくにマレーシアには、地理的にも近いことから、バティック(伝統的なろうけつ染めの布)はどちらのものか?という論争などが存在します。

個人的にぜひ知っていただきたいのはやはり多様性ですね。とくに宗教については、アニミズムに始まり、ヒンドゥー教、仏教、イスラム教と時代ごとに伝わった宗教がそれぞれ残っていて、東南アジア最大のモスク、イスティクラル・モスク(イスラム教)、ボロブドゥール(仏教)、プランバナン(ヒンドゥー)など、多様な宗教建築に触れることができます。ぜひ日本の方にも訪れてみていただきたいですね。


ラオス人民民主共和国

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【面積】 236,800km²
【人口】 約737万人(2021年推定値)
【首都】 ビエンチャン
【政治体制】 人民民主共和制制
【主な言語】 ラオス語
【主な宗教】 仏教
【通貨】 キップ

【地理】
ベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、中国の5つの国と国境を接するASEAN唯一の内陸国。南北に流れるメコン川により、水資源に恵まれた豊かな自然がある。人口の5割はラオ族だが、そのほか約50の民族が暮らしている。

【歴史】
14世紀にランサーン王国として統一。その後フランスのインドシナ連邦に編入され、1953年に完全独立。その後内戦期を経て1975年ラオス人民民主共和国が成立。計画経済により経済発展が遅れたが、1986年から市場経済の導入と開放経済政策を進めている。

【主要産業】
主要産業は農業で、とくにコーヒーは重要な輸出農産品。観光産業にも力を入れている。

【日本との関係】
日本はODA(政府開発援助事業)の一環として、世界遺産に登録されているワット・プー遺跡の保護・保存のための無償協力、橋や道路などのインフラ整備などを行っている。


現地駐在の国際交流基金職員が教える
ラオスとっておき話

asean_jf_13.jpg ラオスは麺料理が豊富(撮影:日下部)

語る人:日下部 陽介 所長
長らくロシアを担当してきたが、2022年6月よりラオス担当に。現在その魅力にすっかりハマっている。


今のラオス...世界的にも少なくなった「いい田舎」が残る国
私が暮らす首都ビエンチャンには大規模なショッピング・モールがいくつもあり、生活に不便を感じることはありません。カフェやレストランも、びっくりするほどセンスのいい店があって、食べ物もおいしいです。高級車も走っていますし、電気自動車の割合は日本よりむしろ高い気がします。

しかし、ラオスの個性を一言で表すならばやはり「いい田舎」。今、世界中でいい田舎がどんどんなくなっている中で、外国人がラオスを訪れるのは、まさにそこが求められているのだと思います。ビエンチャン市内であっても、少し路地に入ると、トタン屋根の下でガラス容器に入った駄菓子を売っている店などもあり、日本の「昭和」を思わせるレトロな雰囲気が残っています。

女性が強い国のようにも感じます。店などを仕切っているのは女性が多く、男性は道端で賭け事に興じていたり、トゥクトゥクの運転手は日陰に車を止め、客車にハンモックを吊って寝ていたりします。ちなみにラオスのトゥクトゥクは、バイクが6人掛けくらいの粗末な客車を引っ張るようなものが多いです。

植民地時代の宗主国だったフランスの文化も残っていて、バゲットやクロワッサンはローカルの店でも普通に売られています。政治はベトナム、経済はタイの影響が強いと言われていますが、2021年にはビエンチャンと中国の昆明を結ぶ高速鉄道が開通し、中国との結びつきが深まっているようです。

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(右)東南アジアの凱旋門と呼ばれる「パトゥーサイ」。門前の通りもパリのシャンゼリゼに見立てて建設された


日本や日本人のことは好きだけれど、幻のような存在?
ラオスの人にとって日本は、「どこか遠くにあるユートピア」のような存在なのかもしれない、と感じます。

両国のつながりは密接で、日本は1991年以降、ラオスにとって最大の開発援助供与国。日本の協力でできた道路や水道、信号、学校などは市内のあちこちにあります。日本映画祭や日本関連のイベントも大人気で、日本のアニメをモチーフにした、緑と黒の市松模様のタオルやTシャツも売られています。しかし、ラオスに住む日本人が少な過ぎるせいか、日本人は「本当にいるの?」という幻レベルの存在のようなのです。

よくラオスの人に「何人か」と聞かれ、「何人だと思う?」と聞き返すと「韓国?」「中国?」「ベトナム?」「タイ?」となかなか正解が出ず、相手は困り果てます。「韓国の東にある国は何だっけ」とヒントを出しても答えが出ないほど。しかし、「日本人だ」と言うと顔がパッと明るくなり、「日本はいい国で、大好きだ」という反応をしてくれるのです。事務所の日本人同僚も同じような体験をよくするとのことなので、私に限ったことではないでしょう。


日本人アーティストがラオスの若者に「ライブではじける」楽しさを伝えた
東南アジアの音楽はK-POPに席捲されていると言われていて、ラオスも例外ではありませんが、K-POPはもちろん他国のスターがラオスに来る機会はあまりありません。そんな中で2023年12月、日本の女性4人のバンド「CHAI」が、ビエンチャンで公演を行いました。

日本ASEAN友好協力50周年記念 CHAI ラオス・カンボジア公演~NEOかわいく盛り上げるASEANと日本の絆~

観客は、中高生や大学生など若い世代が中心でしたが、コンサートに慣れていないのか、踊りだしたくなるような音楽を聴いても最初は席に座ったまま。でも、次第に両手でウェーブをつくったり、スマホのライトを振ったり、立ち上がって歓声を上げたりと反応が大きくなり、ついに1人がステージに向かって駆け出すと、次々に続いて、あっという間にステージ前が熱烈なファンで埋まりました。

私の近くに座っていた高校生くらいの女の子2人組も、最初は静かに音楽を聴いていたのに途中から声を上げながら手や体を動かし、何度か立ち上がりそうになるけれど思いとどまる、ということを繰り返し、最後は音楽とステージ前の盛り上がりに引き込まれて駆け出していきました。2人が手を取り合い、「はじけていいよね」「うん」といわんばかりに頷きあっていたのには私も感動しました!

CHAIの「NEOかわいい」という価値観、飾らなくてもそのままでかわいいというメッセージは、ラオスの若い世代にとても受け入れられやすかったのだと思います。


あわや事故寸前のシーンでも、アイコンタクトと笑顔でよい思い出に
私は自転車通勤をしていて、通勤経路には信号のない交差点やロータリーなどもありますが、たまにバイクなどと出会い頭に「オッと!」となる瞬間があります。そんなとき、思わず相手と目が合うのですが、相手がそっと微笑みを浮かべるので、つられてこちらも笑ってしまうんですね。嫌な瞬間が一瞬で快い出会いに変わるのですが、ラオスではこういうアイコンタクトがすごく重要だと思います。

好きな場所は、ビエンチャンにある、ファンラオというコンテンポラリーダンス・カンパニーのスタジオ、「ブラック・ボックス」です。2023年にラオス国立文化会館で、日本のピアニストと、現地のダンサー10人、ラオスの伝統楽器のケーン(笙に近い竹製の管楽器)と太鼓のミュージシャン2人とのコラボレーション作品を上演したのですが、そのためのリハーサルを「ブラック・ボックス」で行いました。ファンラオのコレオグラファーであるオレさんの振り付けに周りのアーティストが応じることでアートが生まれる瞬間は感動的でした。狭すぎず、広すぎず、アーティストの発するオーラのようなものが、互いに触れ合うことで、高まり合っていくのを助けるような、不思議で魅力的な空間でした。

私自身は赴任するまでラオスに何の縁もなかったのですが、人は穏やかで親切なので嫌な思いをしないし、食べ物は種類が豊富でおいしいし、来てみると天国でした。ラオスにかかわった日本人にリピーターが多いのもうなずけます。


マレーシア

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【面積】 330,241km²(日本の0.9倍)
【人口】 約3350万人(2023年マレーシア統計局)
【首都】 クアラルンプール
【政治体制】 立憲君主制(議会制民主主義)、イブラヒム国王
【主な言語】 マレー語、中国語、タミール語、英語
【主な宗教】 イスラム教、仏教、キリスト教
【通貨】 リンギット

【地理】
赤道近く、マレー半島とボルネオ島の北部にわたる国土を持ち、国土の60%を熱帯雨林が占めるボルネオ島の熱帯雨林は世界最古とも言われ、世界自然遺産にも登録されている。

【歴史】
ポルトガル、オランダ、英国の支配ののち、第二次大戦中の日本軍による占領を経て1957年、マラヤ連邦として独立。1963年にマレーシアに。19世紀の移民により、中国、インド系の住民も多い。

【主要産業】
農林業(天然ゴム、パーム油、木材など)、鉱業(錫、原油、液化天然ガス)などの輸出国だが、1970年代以降は、外資による工業化や技術移転を経て製造業も成長。急速な経済発展を遂げている。

【日本との関係】
1980年代、マハティール首相(当時)が「日本に学ぶ」ことを目指して始めたいわゆる「東方政策」により、留学生や技術研修生の派遣を含む積極的な交流を実施。友好協力関係の礎となっている。

現地駐在の国際交流基金職員が教える
マレーシアとっておき話

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語る人:梅枝 雅子 職員
マレーシア駐在歴5年。タイ(バンコク)、米国(ニューヨーク)にも駐在経験を持つ。


マレーシアの今...地方も含めた国全体の発展ではASEAN随一
これまでにASEANのすべての国を訪れたことがありますが、発展度合いという意味では、シンガポールを除くASEANの中でマレーシアは一つ抜けていると感じます。というのは、ほかのASEAN諸国では、首都は大都市であってもその他の地域との差が大きいんですね。マレーシアの地方都市では、高層ビルや巨大なモールはなくてもインフラは行き届いていて、首都との差の小ささを感じるところがほかのASEAN諸国との違いだと思います。

asean_jf_19.jpg セントラルにも近い、クアラルンプール最古のモスク「マスジットジャメ」

国教がイスラム教なので、制約が多そうだというイメージを持たれることもあるようですが、マレーシアはマレー系約6割、中華系約3割、インド系約1割の多民族国家。町を歩いていると、露出度の高いファッションの中華系の女性なども見かけます。インド系も多いのでヒンドゥー教寺院もあちこちにありますし、12月には、他宗教のお祝いではありますが、街中にクリスマスツリーが溢れます。一方、特に公立学校などの公的な場所では女性は肌を露出しないよう十分に注意する必要があり、そうした生活の中での規律は、同じイスラム教国でもより厳格と言われるブルネイよりも厳しく適用されている印象です。これは、多民族だからこそ、イスラム教徒がよりムスリムとしての習慣を強調する必要があるからかもしれません。

多民族なので、料理も、マレー料理、中華料理、インド料理といずれも本格的なものが食べられるのも魅力です。


リタイヤ移住に教育移住。「移住したい国ナンバーワン」に選ばれる理由とは?
日本では、マレーシアは長年「移住したい国ナンバーワン」に挙げられていますが、これも、地方都市であってもインフラが整っていて、快適な生活が送れることと無縁ではないでしょう。

また最近はリタイヤ移住だけでなく教育移住も人気で、とくに子どもを英語環境で育てるための母子移住を検討している人も多いですね。欧米より安く、英語教育環境が整っているうえ、中華系も多いので、学ぼうと思えば中国語も併せて学べることが魅力になっているようです。

英語については、屋台やマーケットなどでも問題なく通じることが多いです。一時は中等教育の主要科目の授業を英語で行っていた時期もあるほどです。これは、観光客などに対応するためというよりは、英語が準公用語であり、国内にマレー系、中国系、インド系の住民がいる中で、共通言語として日々英語が使われているためだと思います。


「生活のため」ではなく「趣味」として日本語を学ぶ学習者が多い
マレーシアでの日本語学習者数は世界で10位。億単位の人口をかかえる中国(日本語学習者数世界1位)やインドネシア(同ASEAN1位)と違って、人口わずか3300万人の国であることを考えると、人口あたりの学習者はとても多いと言えます。背景には、マハティール首相時代のいわゆる「東方政策」があり、「日本に学べ」と多くの留学生を送り出してきた歴史があります。

しかし今では、マレーシア国内の初任給も日本に迫ってきていますし、給与の面だけで見ると、すぐ隣にシンガポールという存在があります。つまり、「生活をよくするために、日本語を習得してでもぜひ日本に行きたい」という動機はかなり薄れてきていると言えます。

それでも学習者が多いのは、純粋に趣味で学ぶ人が多いということ。マレーシアでの日本語学習者にはそんな特徴を感じます。


『ドラえもん』の知名度は日本国内と同レベル!
最新カルチャーという点では韓国のK-POPに押されがちですが、旅行先としては「やっぱり日本」という声もよく聞きます。南北に長く、四季で表情が違うので、一度行った人でもまだ行っていない場所や季節がたくさんあるんですね。リピーターも多いです。

ポップカルチャーではやはりアニメが人気で、マレーシア人の若い世代は日本人の私よりもずっと日本の最新アニメに詳しいです。また『ドラえもん』は日本と同レベルの知名度で生活に浸透しています。コロナ禍で厳しいロックダウンが実行されたときには、当時の政府高官が、家庭円満の秘訣として「奥さんが旦那さんに話す際、ドラえもんのような可愛らしい声で喋るといい」と発言して「なぜあの喋り方がいいのか」と炎上騒ぎになったことも(笑)。言い換えれば、そういった「例え」に用いられるくらい知名度があるんですね。

最近では、アニメ『呪術廻戦』で、主要キャラの一人が、行きたい場所として「クアンタン」という地名を出したことがマレーシアでも大いにバズりました。ランカウイやレダンのような有名リゾートではなくクアンタンであったところがマレーシアの人には刺さったようで、クアンタンのあるパハン州政府が「記念碑を建てたい」と言い出すほどだったんですよ。


ただでさえ多い祝日が突然増える!?変化に柔軟で寛容なマレーシア気質
実はマレーシアは祝日が世界一多い国。理由の一つが、各主要民族の祝日を国の祝日としているためで、たとえば新年だけでも4回あります。さらに、国政選挙では現住所ではなく出身地で投票する人が多いため、日程が決まるとその前日が移動日で祝日になったり、サッカーの国内リーグでクアラルンプールのチームが約30年ぶりに優勝したらその翌日が突然祝日になることも。突然の祝日は仕事の面では調整が大変ですが、マレーシアの人はむしろ喜んで受けて止めているようです。こうしたことからも、マレーシアの人は変化に柔軟で、全体におっとりと寛容なのを感じますね。

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個人的には、マレーシアの自然をぜひお勧めしたいですね!とくにボルネオ島には、マレーシア最高峰のキナバル山(4095m)があり、爽やかな気候と雄大な景色が魅力。オランウータンの保護区では、マレー語で「森の人」という意味の「オランウータン」が、本当に人のように歩いている姿を見ることができ、初めて見たときには「人が着ぐるみを着て歩いている?」と思ったほどでした。こうしたさまざまなマレーシアの魅力を、ぜひ多くの方に知っていただければと思います。

「最新!ASEANってこんなところ
ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム編」
に続きます。



インタビュー・文:木村 康子

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