第47回(2019年度)国際交流基金賞 授賞式レポート

2019.12.25

【特集071】

国際交流基金設立の翌年である1973(昭和48)年に始まり、今年で47回目を数える国際交流基金賞。毎年、学術や芸術等の文化活動を通じて、国際相互理解や国際友好親善にすぐれた功績を挙げ、引き続き活躍が期待される方々に贈られています。これまでの受賞者は、バーナード・H・リーチ(陶芸家、1974年)、黒澤明(映画監督、1982年)、ドナルド・キーン(コロンビア大学教授/日本文学、1983年)、小澤征爾(指揮者、ボストン交響楽団音楽監督、1988年) 、宮崎駿(アニメーション映画監督、2005年)、村上春樹(作家/翻訳家、2012年)、蔡國強(現代美術家、2016年)等(敬称略、肩書は受賞当時)──とそうそうたる方々が名を連ねています。
今年度の栄えある受賞者は、谷川俊太郎(詩人) [日本]、インドネシア元日本留学生協会(プルサダ) [インドネシア]、エヴァ・パワシュ=ルトコフスカ(ワルシャワ大学教授) [ポーランド]の2氏1団体。11月7日に受賞者も登壇して行われた授賞式の模様を報告します。

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国際交流基金賞は、国際交流基金の事業の中でも最も歴史のあるものの一つであり、第46回までの受賞者・団体は世界33か国、191に上ります。
今年も国際交流基金が活動の柱としている「文化芸術交流」「日本語教育」「日本研究・知的交流」の3つのテーマに沿って、内外各界の有識者及び一般公募により推薦のあった73件から、有識者18名による選考委員会での議論を経て受賞者が決定しました。

70年近く詩作を行い、今なお「ことば」を介した多様な分野で精力的に活動を続けられている谷川俊太郎氏。平易なことばを用い、明快かつリズミカルな谷川氏の詩は、日本語を学ぶ外国人にとっても大きな魅力を持つことから、日本語教育においても活用されています。また、英語、中国語、フランス語、ドイツ語など二十数か国語に翻訳された詩集は50冊を超え、世界の人々が日本文化に親しむきっかけとなっています。

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国際交流基金の安藤裕康理事長(左)と、谷川俊太郎氏(右)

インドネシア元日本留学生協会(プルサダ)は、日本への留学経験者により1963年に設立されました。約8000人もの日本留学経験者を擁し、日本語教育、文化体験プログラム、専門家の交流など意義ある活動を数多く展開しているほか、1986年にはプルサダとインドネシア日本友好協会が中心となって私立のダルマ・プルサダ大学も設立。約5400人の学生全員が日本語を学び、日本の大学等との学術交流や、卒業生の日系企業就職など、積極的な交流で日本とインドネシアの懸け橋となっています。

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インドネシア元日本留学生協会(プルサダ)会長のラフマット・ゴーベル氏(右)

ポーランドを代表する日本史研究者の一人であるエヴァ・パワシュ=ルトコフスカ氏(ワルシャワ大学教授)は、膨大な資料を日本・ポーランド両国で調査、発掘し、日露戦争期から第二次世界大戦終結までの時期の全体を包括的に扱う、世界初の画期的な両国関係史を研究、上梓されました。2003年より教授を務めるワルシャワ大学では多くの学生・大学院生を指導し、茶道裏千家淡交会ワルシャワ寸心協会の顧問としてワルシャワ大学図書館に設立された茶室の運営にもかかわるなど文化交流にも貢献されています。

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エヴァ・パワシュ=ルトコフスカ氏(右)

11月7日、東京都内で開かれた授賞式には、受賞者・団体代表者のほか、選考委員、関係者等約400人が集まりました。式では受賞者ゆかりの方々が受賞者を紹介し、エールを送りました。

谷川氏には、共著のある尾崎真理子氏(読売新聞調査研究本部 客員研究員)が「谷川さんは、地球上のあらゆる国と地域の一人一人に、『人間って、そうだよね』と、分かり合える共通の感覚を、詩に書いてこられたのだと思います。まさにこの賞にふさわしく」と称え、「私たちは、いまや3000編に迫る谷川さんのこのような『詩』のコトバが、天からやさしく降り注ぐように生み出されてきた同時代に生きてまいりました。本当に、幸せなことです」と述べ、谷川氏に「ありがとうございます」と語りかけました。

プルサダには活動を支援する日本インドネシア協会副会長の黒田直樹氏から「プルサダの歴史は両国の関係と表裏一体。今日ここでお祝いを申し上げることに感慨無量なものがあります。ダルマ・プルサダ大学は、元留学生が作った総合大学という世界にも類のないユニークなものかと思います」とスピーチ。

エヴァ・パワシュ=ルトコフスカ氏には、共同研究のある稲葉千晴氏(名城大学都市情報学部教授)から「90年代は多くの日本研究者と手紙のやりとりをしておりましたが、みんな英語で書いてきます。ところが彼女の手紙だけが、気品のある文体とかわいい丸文字で、最後に『かしこ』としめてきます。ペン習字のお手本と見まがうほど素晴らしい手紙でした。エヴァ先生の非常に高い日本語能力と日本文化の理解が、彼女の研究を支えています」とエピソードを披露してくださいました。

続いて、受賞者によるスピーチが行われました。
谷川氏は「詩は私の場合、母語である日本語で書くしかないものですが、それが他言語に翻訳されるのは、原詩が翻訳でどこまで伝わるのかという不安はあるにしろ、私にとっては誇らしい喜び以外の何ものでもありません。詩人たちとは、面と向かってみると、たとえ言葉は通じなくても、詩を書く者同士としての親しみを感じるのが不思議です」と語り、ロッテルダム国際詩祭1992の情景を即興的に書いたという『詩人さんたち』を朗読。氏の国際交流を支えた翻訳者、通訳者への感謝を述べられました。

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『詩人さんたち』を朗読する谷川俊太郎氏

プルサダからは、インドネシア国会副議長でもあるラフマット・ゴーベル会長から「この賞は様々な文化交流、教育協力、研修などを通して両国のより強固な絆を結ぶ貢献を証明するものであり、日本とインドネシアの相互理解と信頼の念を証明するもの。日本からのすべての元留学生の貢献に対する国際交流基金の評価に心から感謝します。使命はインドネシアの若い世代を育て、グローバルな交流をすること。ダルマ・プルサダ大学卒業生が各分野でリーダーとなることを期待しています。この賞を両国の橋渡しとなる世代に継承するため、大学のキャンパス内に展示したいと思います」と笑顔を見せました。

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受賞の喜びを語るラフマット・ゴーベル氏

エヴァ・パワシュ=ルトコフスカ氏は流ちょうな日本語で、日本とポーランドの関係史の研究を開始した1990~91年と、2013年の2度、国際交流基金フェローシップを得たこと等を振り返り、「私が目標を達成してこられたのも、また日本と日本文化に対する私の愛が変わらず今日まで続いてきたのも、皆様のおかげであると確信しています」と各研究者、関係機関等の名を挙げて感謝を伝えられました。
また、1990年に国際交流基金賞を受賞したワルシャワ大学名誉教授(当時)のヴィエスワフ・ローマン・コタンスキ氏は最初の指導教官であり、国際交流基金フェローとして当時の授賞式にも立ち会ったことを述懐しました。

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流ちょうな日本語で感謝の気持ちを述べるエヴァ・パワシュ=ルトコフスカ氏

授賞式後、各者の功績が多くの人の支えや励ましによるものであったことを示すかのように受賞者の周りにはたくさんの人だかりができていました。

取材・文:寺江瞳(国際交流基金コミュニケーションセンター)
写真:片野智浩

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