マンガ展の開催にあたって ―2000年以降の日本のマンガ

キム・ソンジョン
アートソンジェセンター キュレーター

幼い頃からマンガ好きだった私にとって、日本のマンガは夢と希望を与えてくれるものであり、思考の形成にも大きな影響を及ぼした。とりわけ中学・高校時代に友人とよく読んでいた私に人生の困難に負けることなく努力する姿勢を教えてくれた。私と友人たちは、つらい環境にあっても希望を持って夢を追い続け、一生懸命に生きて、ついに望みを叶えるマンガの主人公について語り合った。受験の心配や未来への漠然とした不安を抱えながら感受性が育つ多感な時期であるだけに、この頃に読んだ日本のマンガは前向きな考え方を大きく後押ししてくれた。大学に通っていた1980年代には、日本のマンガよりも韓国の李賢世(イ・ヒョンセ)、朴峰性(パク・ボンソン)、許英萬(ホ・ヨンマン)のマンガを好んで読んだ。1970年代半ば、ほぼ時を同じくしてデビューしたこの3人の漫画家は、素材やテーマだけでなく、作画においてもデフォルメの代わりに写実的な劇画を発表し、マンガを単なる子供向けの作品とする既存の認識を塗り替えた。また当時は、韓国のマンガは社会のあり方に対する共通の意識を形成するものだったため、日本のマンガよりも広く読まれていたようだ。

マンガは「文字」と「絵」によってストーリーを紡いでいくが、これらは共感を可能にする優れたコミュニケーション要素である(ここではアニメーションと呼ばれる映像は除く) 。マンガは文字を通じてストーリーの構造をつくり、絵を通じてストーリーを強化する。吹き出しを使った手短な会話でストーリーを展開していく方法には、演劇や映画とも通じるものがあり、ここに絵を用いて漫画家独自の表現を生み出している。こうした方法で、面白くしっかりしたストーリーに乗せて、読者が知らなかった分野への関心を促し、その関連知識を効果的に伝えている。また、マンガでは音や擬声語、動きが文字と絵で同時に示されるため、風、火、水といった非物質的な要素であっても自由に操ることができる。私たちを取り巻くあらゆる要素を表現しようとするマンガは、現実世界の反映にとどまらず、現実に対して影響を及ぼす。想像力を通じて、実際には存在しない現実が目の前にありありと現れるのだ。

水戸芸術館で開催された「新次元 マンガ表現の現在」展は、ソウルのアートソンジェセンターの「マンガ:日本のマンガの新しい表現」展につながり、その後オーストラリア、フィリピンを巡回する予定である。今回のマンガ展は、マンガというジャンルの二大要素である「文字」と「絵」を通じ、2000年代の日本のマンガのストーリーが変化していることに焦点を当てる。『ソラニン』、『駅から5分』、そして『センネン画報』は、この時代を生きる日本の若者の日常をありのままに描いている。『ソラニン』は20代の揺れ動く青春を表現し、見る者はその切なさに共感を覚えるだろう。『駅から5分』では、現実世界の変化を受け入れ、携帯電話やパソコンのエピソードを登場させている。また、インターネットで連載された『センネン画報』の展示では、マンガのストーリーを引っ張っていく素材という観点からだけでなく、マンガを届ける形態の変化に気づかされる。また、2000年以降の媒体環境の変化に着目してゲームを素材にした『神のみぞ知るセカイ』、魔界の女王の座をかけて魔女っ子2人が対決するという異色の素材を使い、人とのつながりに大切な真実の心を描いた『シュガシュガルーン』、脱冷戦時代を迎え、作中のヒーローが自らのアイデンティティについて悩む『ナンバーファイブ』、そして最近話題のエコロジーを感じるマンガ『海獣の子供』は、内容面で時代と私たちを取り巻く環境を反映している。また、今回の展示には音楽マンガと言える『BECK』と『のだめカンタービレ』が含まれている。韓国でも広く知られている2つのマンガは、聴覚的要素である「音」を視覚的要素である「文字」と「絵」で表現している点で、マンガの新たな表現の可能性を見出すことができる。特に『BECK』は、作中のバンドのコンサート場面が3つのスクリーンに映し出されるが、サウンド効果を排除することによって、音楽を視覚的に訴えようとしたマンガの意図を効果的に表している。

マンガを美術館で展示する理由は何だろうか。マンガの2つの要素である文字と絵のうち、特に「絵」による様々な表現方法を切り口に、マンガという大衆文化の新たな可能性を示すことができるためだ。もちろん、マンガというジャンルを再評価する動きが活発になってきているが、韓国におけるマンガの地位は、その大衆的な支持や絵と文字が織りなす芸術的な価値に比べると、まだ低いのではないだろうか。さらに言えば、マンガ公募展の開催、大学のマンガ関連学科の設置など、1990年代初めからマンガ産業を育成するための制度的なアプローチが様々な形で試みられたにもかかわらず、韓国の美術館では日本に比べてマンガの展示が頻繁には開かれてこなかった。これまでマンガは、一種のサブカルチャーとして捉えられ、したがって美術館という空間で展示するジャンルとは考えられてこなかったことが背景にある。そこで今回、マンガが持つ芸術的な可能性とコミュニケーション手段としての媒体の可能性を9つのマンガ作品を介して提示したいと考える。同時に今回のマンガ展は、一般的な美術展示に限られていたアートソンジェセンターの既存のプログラムが大衆文化にその領域を広げるという意味合いも持つ。日本のマンガは地域的な特性を反映しつつ、普遍的な言語として機能する。今回の展示が今この瞬間を生きる私たちにとって―私が幼い頃経験したように―夢を見つける機会になることを願っている。


Sunjung_Kim.jpgキム・ソンジョン KIM Sun-jung

韓国・ソウルを中心に活動する
インディペンデント・キュレーター。

1990年代から、韓国の現代美術を世界の舞台で発信する一方、国内で国際的な展示を企画して現代美術の流れを韓国に紹介してきた。アートソンジェ美術館(慶州)及びアートソンジェセンター(ソウル)副館長(1993~2004年)、ベニスビエンナーレ韓国館コミッショナー(2005年)。2006年以降、現代アートフェスティバル「プラットホーム・ソウル」をディレクターとして企画。第6回ソウル国際メディアアート・ビエンナーレ「メディア・シティ・ソウル2010」展では、アーティスティックディレクターを務めた。現在、韓国芸術総合学校美術院教授。2010年12月よりアートソンジェセンターで開催される「新次元 マンガ表現の現在」展で韓国側キュレーターを務める。

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