ジャポニスム2018 (Vol.2)

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「MANGA⇔TOKYO」展
日本のマンガ・アニメ・ゲーム・特撮とジャポニスム2018 

明治大学国際日本学部准教授
森川嘉一郎

 ジャポニスム2018の一環として、日本のマンガやアニメに関する展示をパリで開催することになり、その企画構成を担当しました。
 政府の事業でマンガやアニメを海外で紹介しようということになる背景には、まさにその海外で、日本のマンガやアニメが博してきた人気があります。フランスでも、テレビや映画館で日本のアニメが流れ、書店に日本のマンガが並んでいます。生きた娯楽として愛され、生きた商品として選択され、消費されています。マンガやアニメがまばゆく輝くのは、その瞬間です。なので、今さらいくつかの「作品」を額縁に入れて、ただ並べて紹介する意味は、希薄にならざるを得ません。どうするか。
 マンガやアニメの作品「を」展示するのではなく、マンガやアニメ「で」展示する。何を展示するか。3,500平米もの広大な展示空間を使わせて頂くことになり、〈東京〉という都市を展示することにしました。なぜ〈東京〉か。
 『ドラゴンボール』のように架空の世界を舞台にした作品がある一方で、日本のマンガ・アニメ・ゲーム・特撮には、現実に存在する場所を舞台にした作品が無数にあり、とりわけ東京で展開される物語が数多くあります。それらの作品によって、『名所江戸百景』の東京版が、できてしまう。しかも、高度成長期の東京、バブルの頃の東京、現在の東京、少女からみた東京、青年からみた東京、主婦からみた東京、というように、無数の時空や位相にまたがる「百景」が。

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©Hiroyuki Sawada

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©Hiroyuki Sawada

 そしてそれらは、単にキャラクターの後ろに描かれている背景画に、東京の特定の場所が描かれているという次元のものではありません。例えば『ゴジラ』『AKIRA』『新世紀エヴァンゲリオン』など、人智を越えた制御不可能な存在によって、東京が破壊される作品が幾度も現れてきました。そうした虚構を成立させているリアリティの基盤に目を向けると、大地震などによって繰り返し破壊されては復興することを繰り返し、いずれまた被災することが半ば宿命付けられた未来へと続く東京の歴史を、そこに重ねてみることができます。『AKIRA』や『エヴァ』は作品の中で破壊と復興が反復されており、東京の歴史を、そのような物語の構造が擬態しています。
 ファンタスティックでありつつ、日本のリアリティを、さまざまな世代や位相にまたがって写し取ってきた。そこに、日本のマンガ・アニメ・ゲーム・特撮の、類稀な文化的価値の一端があるのではないか。写し取られた〈東京〉を展示することによって、そのような特質や価値を伝えることを目指しました。

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©Hiroyuki Sawada

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©Hiroyuki Sawada

 展示のレイアウトは、日本のアニメでもしばしば描かれる神社の空間構成を下敷きとし、導入部となる空間には、秋葉原と乙女ロードのアニメ専門店街を、門前市のように再現しました。そして参道のような通路を経て、約22m×17mの巨大な東京の都市模型を神楽の舞台のように配置し、マンガ・アニメ・ゲーム・特撮のキャラクターを地霊に見立て、作中のさまざまな場面が、それぞれ都内の具体的な場所で展開される様子を、会場の最奥に張った幕に投射しました。
 そのような空間的な見立ての一環として、会場の袖には絵馬掛けを模した掲示板を設置し、来場者が展示の感想なり、自分が好きなキャラクターなりを、カードに描いて掲げることができるようにしました。幸いにも、幅広い年齢層にまたがる来場者から、開会数日にしてびっしりと掲示板が埋まるほどの反響を頂き、数多の長いコメントからは、展示内容に対する強い関心をうかがうことができました。
 「日本のマンガについてはよく知らなかったが、その文化的な厚みに感銘を受けた」というコメントを老夫婦から頂いたと、現地の学生スタッフが喜んでいたことは、とりわけ印象的でした。加えて掲示板には、思い出のキャラクターのイラストが描かれたカードもたくさん並び、日本のマンガ・アニメ・ゲーム・特撮が、いかにフランスで愛好されてきたかを、あらためて感じることができました。
 展示の実現にあたり、お力添えを頂いた方々に、深く感謝申し上げます。

japonismes_2018_02_06.jpg 森川嘉一郎
明治大学国際日本学部准教授。早稲田大学大学院修了(建築学)。2004年ベネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展日本館コミッショナーとして「おたく:人格=空間=都市」展を制作(主催:国際交流基金)。2008年より現職。明治大学において「東京国際マンガミュージアム」(仮称)の開設準備、および米沢嘉博記念図書館の運営に関わる。著書に『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ』(幻冬舎、2003年)など。

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