Vol.8 秋ならではの盆栽鑑賞の楽しみ

9月後半になると盆栽愛好家は、愛情を込めて育てた盆栽の晴れ舞台となる秋の展示会に向けて準備に取りかかります。地域住民や愛好家仲間に鑑賞してもらう貴重な機会であるだけに、徒長枝とちょうし(伸びる勢いが強い枝)の剪定や乱れた枝を針金で整える作業に一生懸命です。

秋の展示会に出展される樹種は、代表的な松類をはじめ、紅葉や可愛らしい実をつけた樹など様々。盆栽愛好家にとっては、どの盆栽を展示しようか悩むのもまた楽しみ。

この機会に改めて、盆栽の樹種の分類を説明しようと思います。

盆栽のカテゴリーは大きく3つに分けられます。「松柏しょうはく盆栽」「草物くさもの盆栽」「雑木ぞうき盆栽」です。

松柏盆栽は常緑針葉樹で、黒松、赤松、五葉松、蝦夷松、真柏、杜松、一位、杉などがあげられます。

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力強さを感じさせる松柏盆栽の代表格、五葉松。

草物盆栽は、草花を単体、もしくは寄せ植えしたもので、展示会では主木となる樹を引き立てる役割。とはいえ、季節感のある草物が並ぶことで展示に物語が生まれ、小さいながらも鑑賞者の目を引きつけます。

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小さいながらも展示会で存在感を放つ草物盆栽。

雑木盆栽は梅、椿、モミジ、楓、カリンなどの常緑広葉樹と落葉広葉樹で、さらに細かく「実物みもの盆栽」「花物盆栽」「葉(枝)物盆栽」に分けられます。
実物盆栽は、カリン、ウメモドキ、ズミ、マユミ、柿など、実をつけた状態で鑑賞、展示することが好まれる樹種を指します。
花物盆栽は梅、椿、桜、藤、バラなど、花の咲く時期に鑑賞、展示することが好まれる樹種。
葉(枝)物盆栽はモミジ、楓、ケヤキ、ブナ、イワシデなど、新緑や紅葉、または落葉後、枝だけになった状態を鑑賞、展示することが好まれる樹種です。

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可愛らしい実と美しい紅葉が特長のマユミは実物盆栽。

実物盆栽の楽しみはやはり実をつけた状態で鑑賞することですが、その楽しみを味わうための最低限の知識をご紹介します。

まず、雄しべや雌しべがあることは小学校で習ったと思います。樹にも雄樹と雌樹があることをご存知でしょうか。専門用語では「雌雄異株」または「雌雄別株」と言います。 この雌雄異株に属する樹には、花の時期に雄樹と雌樹を寄り添わせる必要のある品種があり、代表的なものはロウヤ柿です。

雌雄異株と異なる生態で「雌雄同株」というものがあり、これは1本の樹に雄花と雌花が同時に咲いて受粉する品種です。栗やアケビなどがあげられます。

最近は雌樹単体でも実のなる樹が盆栽に仕立てられて流通しているので、購入時に実がなるか確認することをお勧めします。

その他、異なる樹木同士での受粉が適した種類もあります。

実をつけさせるためには、花を咲かせなくてはなりません。花の後に実がなるのですから当然ですね。
そこで、花の時期に気をつけなければならないのが、たっぷりと水をやること。そして極力、花を濡らさないように水やりをすることです。
それともう一つ大切なのが日光。花芽の形成は樹によって異なりますが、6月下旬から8月上旬がピーク。その時期に光量が足りないと花芽が形成しづらくなります。

お恥ずかしい失敗談ですが、今年、我が家の梅に花芽がまったくつきませんでした。5月下旬に今年出た葉っぱを全部切り取る「全葉刈り」をして、芽数を増やす作業を施したのですが、その後、葉は再び生え揃ったものの光量が足りず、来年の花芽がつきませんでした……。
1年に1度の楽しみを夏の間の管理で台無しにしてしまうとは、プロとして情けない。

今回、我が家の梅の件は日照不足が理由と判断できるのですが、花が咲かない、実がならない原因はなんだろうと試行錯誤することは、長く盆栽と付き合う上で大切。今年ダメでも諦めないで、毎年学んでいきましょう!

モミジや楓など、紅葉を楽しむ葉物盆栽で一番気をつけなければならないのは、夏場の葉焼けを防ぐこと。生えてから5年前後の若木の場合、葉焼けしてしまうことも多いのですが、樹が成長し根も増えることで丈夫になり、多少の強い日光にも負けない樹になるでしょう。

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秋は楓やニレケヤキの紅葉が楽しみな季節。

秋も深まり、健康な葉の状態を維持できたら、あとは紅葉の準備。
樹が紅葉する条件としては、日中と夜間の気温差がポイントです。盆栽の場合、その環境作りを夕方の葉水で補います。夕方にさっと葉に水をかけることで温度がぐっと下がり、色鮮やかな紅葉を見せてくれますよ。

大切に育てた小さな鉢の上での紅葉狩り。
粋ですね。

bonsai_profile.jpg 森 隆宏(もり たかひろ)
盆栽師。1979年、東京都生まれ。常磐大学国際学部を卒業後、2002年より勝田光松園にて盆栽を修行。2006年に独立し、盆栽師として活動を開始する。2009年、由緒ある国風盆栽展で職人として手がけた作品が国風賞を受賞。2009~2013年、さいたま市大宮盆栽美術館の専属盆栽技師を務める。2013年、欧州文化首都2013コシツェに盆栽デモンストレーターとして、第8回世界盆栽大会(2017年開催)のさいたま誘致プレゼンテーションに盆栽師代表プレゼンテーターとして参加。2014年にはスロヴァキアの国際盆栽フェスティバルでもデモンストレーションを行い、2016年の国際園芸博覧会トルコ・アンタルヤでは日本政府出展の展示に盆栽専門スタッフとして携わった。現在、盆栽師の仕事に従事する傍ら、2013年に構えたアトリエ「盆栽もり」などで初心者向けワークショップを開く他、米カリフォルニアでも講習会を行うなど、国内外で盆栽の普及活動に取り組む。

盆栽もりHP http://bonsaimori.jp/
盆栽もりfacebook https://www.facebook.com/Bonsaimori/

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