Vol.3 「作る」「育てる」「鑑賞」が盆栽の三大楽しみ

4月は植え替えと「芽摘み」の時期。芽摘みとは、たとえばもみじの場合であれば、新葉が少し開いて2枚の葉の間から新たに伸び出そうとしている芽を摘み取る作業。
樹の強い生命力を感じる瞬間です。

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春の息吹を感じさせるもみじの新芽。

桜の話題でそろそろお腹いっぱいになる頃ですが・・・・・・、千鳥ヶ淵へ花見に行ってきました!
花見客と武道館での某大学の入学式が重なり、歩くのもやっとな感じ。それでも毎年どこかの桜を見に行きたくなるのが、季節を楽しむ日本人の性ですね。

花見を楽しむ最中、どうしても出てきてしまう職業病。
地面を這う根、幹、枝、管理状態など樹全体を隅々まで観察。そして剪定、枝や幹に曲線を加えてと、頭の中で盆栽作りが始まってしまう。
登山や公園を散歩していてもつい考えてしまうので、これはもう仕方ないですね。

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千鳥ヶ淵の桜。つい枝ぶりに目が行ってしまうのは盆栽職人の性・・・・・・。

「作る」「育てる」「鑑賞」
これが盆栽の三大楽しみです。

屋内で育てる観葉植物は、個性的な葉や姿の鑑賞を楽しむものですが、盆栽は季節が移ろう中、作り上げていく楽しみがあります。
「作る」というのは、根張り、立ち上がり、幹通り、枝付き、といった見所から総合的に正面を決め、剪定や針金整枝を施して形を整える作業。

盆栽師が愛好家から依頼を受ける作業も、ほぼ作ること。
せっかくの楽しみなのに任せてしまうの? と思うかもしれませんが、盆栽師は審美眼と技術を備えていますので、より良い方向性を導き出し、完成形に近づく年月を短縮できるのです。

12、3年前。埼玉県内の盆栽園で職人として働いていた頃、応用力の乏しかった私は、要望に100%応える仕事ができず、もがきながら必死に仕事をこなし、盆栽の奥深さを叩き込まれる日々を過ごしていました。
次々と運ばれてくる盆栽の図出し(樹の個性を生かして構想すること)、針金整枝をし、その後には長い盆栽談義。キツかったけど充実していて、まさしく無我夢中と言える貴重な環境でした。

少し成長を感じ始めたある日、盆栽界の大先輩に仕事を評価してもらうという、図々しい行動をとったことがあります。大先輩の返答には、仕事に対する心構えが含まれていました。

「誰が作ったかわかるようじゃ二流だよ。誰が作ったかわからないけど、いい仕事しているね、と言われる仕事こそ、本当に樹に合わせた作りをしているってことだから」

「樹に合わせる」とは、樹の個性を最大限に生かした作りをすること。修行時代から散々言われてきた言葉でしたが、経験値が増えると、どうしても自分の癖というものが出来上がってしまう。
作る人の癖が盆栽からなんとなくでも滲み出ると、鑑賞者に見えてしまう。

「個性が大切」と言われて育った団塊Jr.世代だけに、個性があっていいじゃないか! と言いたいところですが、盆栽ならではの捉え方として、盆栽が主役であって、職人は樹の長い歴史の一時期お世話をさせてもらい、次へ受け渡していく、黒子のような存在。

樹の寿命は人の寿命よりはるかに長く、樹を生かすことがすべて。黒子というのはまさしく盆栽職人のあるべき姿だな、と納得せざるを得ません。

「作る」というと、とても人工的な印象が強くなってしまいますが、人が樹に盆栽としての躾を施したとしても、思った通りに成長してくれるとは限りません。

「人が半分、樹が半分作る」

樹の力を借りなければ、盆栽は完成しない。土、水、光、風の自然の恩恵を受け、長い年月を経る中で作意の匂いが薄らぎ、ようやく誰もが認める良い盆栽が完成するというもの。

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植え替え角度を設定し、大まかな剪定を終えた五葉松。

植え替え、針金整枝後の五葉松。

正直、現代のスピード重視、デジタル志向の社会と逆行した存在だとは思うわけですが。 長い時間と根気のいる手間をかけることでしか完成形に近づかない盆栽。そのような盆栽と対峙する時、我々はさまざまな気づきをいただけるのです。

そんな盆栽を作るワークショップ、各地で開催されています。ぜひ一度お近くの盆栽園やイベントなどで盆栽入門体験してみてはいかがでしょう!

当園でも毎月、一人でも多く盆栽作りを体験してもらえるよう初心者向けワークショップを、解説(たまに雑談)しながら楽しくやっています。
個人でできる普及活動としては2日間の日数設定がギリギリで、地道ではありますが、盆栽ファンを増やしていきたいと奮闘中。

この春から盆栽作りスタートしましょう!

【Information】
「第8回世界盆栽大会inさいたま」2017.4.27~4.30@さいたまスーパーアリーナ他
http://world-bonsai-saitama.jp/

bonsai_profile.jpg 森 隆宏(もり たかひろ)
盆栽師。1979年、東京都生まれ。常磐大学国際学部を卒業後、2002年より勝田光松園にて盆栽を修行。2006年に独立し、盆栽師として活動を開始する。2009年、由緒ある国風盆栽展で職人として手がけた作品が国風賞を受賞。2009~2013年、さいたま市大宮盆栽美術館の専属盆栽技師を務める。2013年、欧州文化首都2013コシツェに盆栽デモンストレーターとして、第8回世界盆栽大会(2017年開催)のさいたま誘致プレゼンテーションに盆栽師代表プレゼンテーターとして参加。2014年にはスロヴァキアの国際盆栽フェスティバルでもデモンストレーションを行い、2016年の国際園芸博覧会トルコ・アンタルヤでは日本政府出展の展示に盆栽専門スタッフとして携わった。現在、盆栽師の仕事に従事する傍ら、2013年に構えたアトリエ「盆栽もり」などで初心者向けワークショップを開く他、米カリフォルニアでも講習会を行うなど、国内外で盆栽の普及活動に取り組む。

盆栽もりHP http://bonsaimori.jp/
盆栽もりfacebook https://www.facebook.com/Bonsaimori/

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