スプツニ子!
ハロー! スプツニ子!です。
前回に引き続き、今回はRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)の話その2です。前回は、私の先生ことアンソニー・ダン教授が提唱する「Big Design」の意味を、ベネディクト・グロスの卒業制作から考え始めてみました。1か月も待ってたから内容忘れちゃったよ〜、って人は、ぜひ読み返してみてねっ!
さてさて、ロサンゼルスのプールを全部数えてみるべく、インドの激安ITベンチャーにLAの航空写真の分析とプールの画像切り抜きを依頼したベネディクト。でも、びっくりするぐらいのコストの安さに、さすがに彼も罪悪感を覚えました。
そこで次の作業はAmazon Mechanical Turkというクラウドサービスを利用することにしました。これは、世界中のさまざまな人(ワーカー)に、自動化されたプログラムでは作業が難しい単純作業をワークシェアしてもらう仕組みで、依頼主はワーカーに作業に見合った報酬を支払います。昔風に言えば内職ですが、娯楽(暇つぶし?)として若者が多く参加しているのが特徴です。ベネディクトは、このサービスを利用して、インドでつくられたプールのデータが正しいかどうかをワーカーに確認してもらい、同時にかたちや大きさなどの詳細な情報もリスト化してもらいました。
あっという間に、LAのプールについて世界でもっとも詳しい人物になったベネディクト(笑)。彼は、次にその情報をエリアごとに実際の本としてまとめました。そうすることで見えてくるのは、プールを通した地域格差、経済格差です。高級住宅街のビバリーヒルズはプールだらけだから本も分厚くなる。一方貧しいスラム街にはプールはほとんどないからぺらぺら。本のフィジカルな厚みによって、LAの問題があぶり出されるわけです。
ここで示唆されるのはLAの格差だけではありません。欧米に対して圧倒的に安いインドの賃金。ネット社会における労働実態(Amazon Mechanical Turkは、しばしば「virtual sweatshop/ネット版搾取工場」とも批判されています)。また、クラウドサービスを利用することで、きわめて容易にプライバシーが手に入ってしまうセキュリティーの問題などなど。もちろん、この作品をつくるにあたり、ベネディクト自身もある種の搾取に加担してしまっているわけですが、ここにはデザインに対する新しい知見もあります。
それこそが、あるシステムを設計することで社会に対して直接的に関与するデザイン=Big Designの思想です。大きなビジュアルインパクトを与えるエステティック(美学)的な造形性に頼るだけでなく、そのデザインが用いられることで、社会にどのような影響を与えることができるかを検証し、社会の諸問題に鋭いスマッシュを与える。
考えてみると、私の作品もBig Designに近いように思います。個人的な疑問からスタートし、クラウド的な集合知やさまざまなスキルを持った人たちのグループワークによって作品をかたちにしていくプロセスは、一種の社会的システムを、そのつど編んでいくことでもあるからです。もうすぐ私はMITのあるボストンに旅立ちますが、ロンドン滞在は私に新しい発見を与えてくれたのかもしれません。
ロンドン時代の私と悪友たち!
作品制作中の風景