05 生き方を考える旅

河瀨直美
映画監督



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映画祭での一幕

 ポーランドのブロツワフという町で国内最大の映画祭が開催されている。 わたしは今回審査員として参加した。10日間の滞在の中でゆっくりと映画を鑑賞し、街を散策できたのは、とてもいい経験だった。ブロツワフの最高級ホテルに宿泊させてもらったが、ここはかつてヒトラーやピカソも宿泊したという老舗ホテルだ。屋上レストランからは、隣の古びた教会の屋根が美しいレンガ色をしてすっくと立っている姿が見える。ポーランドは石の文化だ。町の広場は人々が集い、市長舎は教会のような佇まいを今に残す。馬車が走っているのは、観光のためのものだろう。その広場の中央部には、大きなスクリーンが出現していて、夜になると無料で映画を楽しめるようになっている。大道芸人があちらこちらにいて人々がその周囲を囲んでいる。またレストランは広場に面して広がり、人々は食事をしながらそういった様々なパフォーマンスを見ることができる。主にドイツからの旅行者が多く、子供連れが大半を占める。この映画祭は大手通信会社がメインスポンサーになっていて、街のあちこちに会社のロゴが見える。

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夜になると無料で映画を楽しめるようになっているブロツワフの広場

もうひとつの広場では仮設の砂浜が出来上がっていて、そこでみんなスポンサー名の書かれたパラソルをたてて寝転がっている。子供たちはその脇にあるトランポリンで、日差しを浴びてずーっと跳ねていた。天候に恵まれた滞在期間中、息子はずっとこの広場に通った。ホテルから広場までの道中、街角にそっとたたずむ銅の小人たち。それらはそれぞれの特徴的な姿形をしている。丸い球を一生懸命運んでいる者、バイクに乗っている者、たからかに手を上げて喜んでいる者などなど。それらを探して歩くだけでも、ひとつの楽しみとなる小さくも親しみやすい町ブロツワフ。旧市街地は市内の中心を流れるオドラ川に面して小さな島になり、美しい公園と教会が並ぶ。ホテルからゆっくりと散歩しながら辿り着き、教会の前のカフェでお茶をした。スズメに似た鳥たちが零れ落ちた食べ物をつつきにテーブルまでやってくる。ほっと安らぐ光景だ。公園の大きなカエデの木に小さな実がなっていて息子が欲しがるので、ジャンプをして採ろうとしたところ、近くのベンチに腰かけていたおじさんが手をさしのべてくれた。昼下がり、観光客に小さな親切をほどこしてくれるこの町は今、とても平和なのだなと思う。しかし、第二次世界大戦の頃はドイツに占領されとても深い悼みを抱える国でもある。審査が終わった週末。わたしたちは少し足を延ばしてアウシュビッツを訪れた。8歳の息子が戦争の悲劇を目の当たりにして感じた想いはなんだろう。「この罪を犯すのも人間。それを防ぐのも人間」元囚人が解放後に語ったその言葉の重みを70年のちのわたしたちがどう受け取るのか。生き方を考える旅となった。

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アウシュビッツ





kawase01_00.jpg 河瀨直美
生まれ育った奈良で映画を撮り続ける。
「萌の朱雀」(96)カンヌ国際映画祭新人監督賞を史上最年少受賞。
「殯の森」(07)カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。
「玄牝-げんぴん-」をはじめドキュメンタリー作品も多数。
自らが提唱しエグゼクティブディレクターを務める『なら国際映画祭』は今年9月14-17日に第2回を開催〈http://www.nara-iff.jp/〉。
奈良を撮りおろした作品「美しき日本」シリーズをWEB配信中〈http://nara.utsukushiki-nippon.jp/〉。

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