トニー・ラズロ
言語研究家
海外の地に行って、「一晩泊めてくれない?」と、いきなり知らない人には言えないよね。......いや、言えなかった、と言ったほうがいい。最近、それらしいことが全世界的に流行している。現象の名前は「ホスピタリティー・エクスチェンジ」。これは「もてなし合う」の意。 ホスピタリティー・エクスチェンジのサービスを利用するには、それ用のウエブサイトに登録し、名前や居場所、そして趣味などを記入すればいい。ここまではほかのソシアル・ネットワーク・サイトと同じ。でも、mixiやLinkedin、Facebookなどと違って、ホスピタリティー・エクスチェンジでは、メンバーはお互いに、我が家に人を泊める用意があるかどうかをも示しておく。用意がある場合、その条件もかなり詳細に明記する。たとえば、お客さんが何日泊まれるか、何人で泊まってよいか、ペット連れでも大丈夫か、など。この手続きを済ました人がほかのメンバーに連絡できるようになる。たとえば、「私は日本在住のこういう人で、来月の〇日から1週間、ベルリンにいる予定だけど、二泊泊めてくれない?」、と人に声をかけてみるわけだ。
ちなみに、今フランスで旅行中の私も最近始めた。ただ、メンバーになったものの、当分の間、泊めたり泊まったりするつもりはない。「だったら、なぜ」?実は、メンバーの中には「(来客を家に迎える用意はないが)ちょっと会うだけならかまわない」という姿勢をとっている人はけっこういる。私は今フランスで、「自分が住んでいる町を案内してもいいよ」という、こういう人に連絡して、その地域地域について、そこに住む人から直接お話をを聞こうと思っている。もちろん、自分が住んでいる町(東京)や育った国(アメリカ)などについて語っていもいい。今、できるだけ勉強中のフランス語を使ってコミュニケーションを図りたい。うまくいけば、言葉の練習にもなる。 ホスピタリティー・エクスチェンジは、少なくともイメージ上では、布団やソファの貸し借りが中心になっている。でもそうしなくてもこのムーブメントに参加できる。キーワードは「もてなし合い」。「もてなし」はなにも、寝泊り空間の提供に限定したものでもなければ、それが絶対条件でもはない。むしろ大事なのは、遠くから来た人と会ってひと時を過ごしてもいいと思う心。もっと簡単に言えば好奇心と思いやり、かな。そう、そのような気がする。
言語研究家 ハンガリーとイタリアの血を受け継ぎアメリカで育つ。1985年来日。 85年より日本を拠点としてライター活動を開始。92年から多文化共生を研究するNGO「一緒企画(ISSHO)」を運営。 漫画家、小栗左多里の夫であり、「ダーリンは外国人」のダーリン。 自他ともに認める語学オタク。現在一児の父。著書に「トニー流幸せを栽培する方法」、「ダーリンの頭ン中」「イタリアで大の字―さおり&トニーの冒険紀行」「ダーリンは外国人 with BABY」などがある。