2022.3.25
【特集076】
特集「内なる多様性」(特集概要はこちら)
国際交流基金(JF)では1985年から、国際文化交流活動を通じて、日本と海外の市民同士の結びつきや連携を深め、互いの知恵やアイデアを交換し、ともに考える団体へ「国際交流基金地球市民賞」を贈呈しています。2021年は一般社団法人エル・システマジャパン(東京都千代田区)、学校法人ムンド・デ・アレグリア学校(静岡県浜松市)、特定非営利活動法人名古屋難民支援室(愛知県名古屋市)の3団体が受賞しました。
2022年3月1日に行われた授賞式は新型コロナウイルス感染症対策のため、昨年度に引き続きオンラインでの開催となりました。
受賞スピーチで、一般社団法人エル・システマジャパンの代表理事・菊川穣さんは、ご自身が音楽家でもなく、また、その地域出身でもない者として、オーナーシップとパートナーシップを常に大切にしながら、そこに住む関係者に主体的にかかわってもらえる関係づくりを重視してこられたことに触れ、「たった10年ばかりですが、これまでの経験で、環境を整え、一人一人の学びに寄り添えば、持てる力を大きく開花し、なにより音楽を愛し、自分の目標に向かって努力し、他者の存在を大切に思えるような子どもたちが育ってきています。コロナ禍の不自由さを乗り越えようとしている、そしてウクライナの戦争のことを思う今、集まって学ぶ音楽体験で得られる豊かさをさらに多くの子どもたちに届けていきたいと思います」と、今後の活動への意気込みをお話しくださいました。
学校法人ムンド・デ・アレグリア学校の校長・松本雅美さんは「私はムンド校の挑戦として『母国語と日本語との両輪(ダブル・アドバンテージ)』を目指しました。経営状況が厳しい南米系の学校ではかなり難しいことでしたが、あえて困難に挑戦したのです。その私たちの『想い』に初めて光を当てていただき、このような名誉ある賞をいただけましたこと、これまでの苦難、苦労が、そして『想い』が報われました」と受賞の喜びを述べられました。
また、教頭のカイヤ・マリステラさんは「このような学校を同国人ではなく、一人の日本人がつくってくれたことにとても感動しています。これからも一人でも多くの子どもたちが学ぶ歓びを感じることができるように努めたいと思います」と学校への思いを語られました。
特定非営利活動法人名古屋難民支援室の副代表理事・川口直也さんからは「新型コロナウイルスの影響を受け、困窮する難民が増えていましたが、『地域と協同の研究センター」および『アジア・ボランティア・ネットワーク東海』のご協力を得て食料支援を開始し、年間を通じて継続することができました。送付する支援物資には大学生の皆さんの協力も得て手紙も添えました。支援物資を受け取った難民の人々からは喜びや感謝の声が届きました。難民の人に『自分のことを気にかけてくれている人がいる』ということが伝わったと思います。今後も東海地域の難民支援を通じて、多様な文化の共生に寄与できたらと思います」と、地域を巻き込んだ活動への信念が垣間見えるスピーチがありました。
授賞式では選考委員から、一人一人に寄り添うこと、相互理解に努め相手の尊厳に敬意を払っていることが3団体の活動の共通点であり、そうした姿勢がこれからの国際文化交流において大切なものだと思うとのコメントがありました。
また、コロナ禍でつながりが希薄となり視野が狭くなりがちな今こそ、今回の受賞3団体の活動のように人と人がつながることが必要とされているはずなので、受賞をきっかけにさらにステップアップしていってほしいと激励の言葉がかけられました。
受賞団体や関係者の方々の対面での交流はかないませんでしたが、受賞団体のみなさんの喜びと今後の活動への熱い思いに満ちた授賞式となりました。
国際交流基金地球市民賞
https://www.jpf.go.jp/j/about/citizen/
取材・文:石川結衣(国際交流基金コミュニケーションセンター)