2020.1.7
砂金 里奈
(国際交流基金 日本語第1事業部 事業第1チーム)
国際交流基金は、2019年11月2日に「第8回看護・介護にかかわる外国人のための日本語スピーチコンテスト」(主催:一般財団法人 海外産業人材育成協会(AOTS))を共催しました。このコンテストは、外国人人材の受け入れが進む中、すでに日本で働いている外国人の経験談を聞くことができる貴重な機会として、2012年より年1回開催されています。1次審査を通過した看護・介護の現場で働く外国人10名が患者・利用者の方との日々のエピソードや日本人への提言等を披露しました。
入賞者のスピーチの一部をご紹介します。
第1位「施設で働いて学んだこと」
リスカ ラハマティカさん(インドネシア)
皆様、こんにちは。インドネシアから参りました介護福祉士候補生のリスカと申します。愛知県の保健施設で2018年の12月から働いています。働き始めてまだ1年にもなりませんが、皆様に伝えたいことがたくさんあります。お聞きください。
一つ目は職員さんから学んだことです。働く前は日本人の職員は厳しいのではないかと心配でした。日本語がまだ上手ではないし、働きながら勉強することは大変だろうし、いろいろ考えて不安でした。でも働いてみたら職員さんは優しくて、ゆっくり話してくれ、できるまで何回も教えてくださいました。(中略)「リスカさん、今、手あいている?」と聞かれ、手を合わせて困っている私を見て、「今、忙しくない?」と聞き直してくれました。それで私は理解できたのです。(中略)
二つ目は利用者様とのふれあいについて話します。利用者様と接するとき「利用者様は未来の自分」と思っています。私もいつか年をとったら他人の世話になります。私が利用者様だったらどうしてほしいか考えて行動するようにしています。私は優しく世話をしてほしいので利用者様にもそのようにしようと思っています。ある日、介助しようと「Aさん、今から立ちますよ」と言うと、「嫌だ、寝ているよ」とおっしゃるのです。どうしようかなと考え、「へえ、寝ている……じゃ、夢で会いましょう」と言ったらAさんは笑って、「じゃあ、起きようかねえ」と介助させてくださったのです。はじめは困りましたが、笑顔の利用者様を見てうれしくなりました。(中略)利用者様をお世話することで私はユーモアをもって優しく接すること、全体を見ることの大切さを学びました。
三つ目は声かけについてです。職員さんや利用者様は、よく「ありがとう」「助かります」と言ってくれます。私はこの言葉が大好きです。なぜかって? 私が他の人の役に立てたと感じることができるからです。また、知らない職員さんからも「お疲れ様」と言ってもらえ、うれしいです。関係が良くなると思います。職員さんも利用者様も「すみません、ありがとうございます、悪いけれど……、何回もお世話になって」とよく言ってくださいます。悪くなくても「ごめん、ごめん」と言ってくれます。感謝と謝罪の言葉がすぐに言えるのです。誰が間違ったとか誰を助けたかは大切ではありません。自分からすぐに言えるということが素晴らしいと思います。
最後は宗教についてです。日本ではお祈りのために遅刻したり休んだりする人はいませんが、私にとって宗教……お祈りができるか、ヒジャーブ*を被れるかは重要です。仕事の途中でお祈りをする時は決められた時間のうちにできるように工夫します。職員さんも時々「お祈りの時間でしょ?」と教えてくれます。イスラム教では「親を尊重し、他の人間に利益をもたらすこと」「高齢者には高貴な言葉を言い、愛情をもつこと」を言っています。私はそのこと大切にし、優しく誠実なケアをしたいと思います。
皆さん、毎日、気持ちよく仕事ができるように考えましょう。日本では仕事だけではなく学ぶことがたくさんあると思います。
第2位「心の支え」
ニ ルフ プトゥ ウィドヤニンシーさん(インドネシア)
(前略)介護施設でアルバイトを始めて6か月くらいたった頃、私の考え方が変わった出来事がありました。その日は「ユキさん(本当の名前じゃありません)」の誕生日でした。いつもどおり朝ごはんが終わって、皿を片付けながら利用者さんに声をかけました。「あれ?ユキさんはどこですか?」「部屋にいるみたいですよ」誰かが言いました。
あれ?珍しいな。普段はテレビを見ながらお茶を飲むのに。今日はすぐに部屋へ戻ってしまった。ドアの隙間から見ると、ユキさんは服を着替えていました。「ユキさん、何をやっていますか?」と聞いたら、「今日は私の誕生日だから家族がきっと来てくれる。今から準備したほうがいいと思うの」と言って張り切っていたので、私もうれしくなりました。
それからユキさんは家族のことをたくさん話してくれました。でも、昼ごはんが終わっても、夕ごはんが終わっても、ユキさんの家族は来ませんでした。
私は小さい声で「ユキさん大丈夫ですか?」と声をかけました。「大丈夫」と返事をしましたが、よく見ると、ユキさんは泣いていました。私はすぐにユキさんのところへ行って抱きしめました。「大丈夫だよ。私いるよ。今日お誕生日おめでとうございますね」私も涙が出ました。ユキさんは「私を励ましに来てくれてありがとうね。あなたはどんなに忙しくても両親をちゃんと大事にしてくださいね。今年の誕生日はあなたが来てくれた。ありがとう」と言いました。
私は本当に感動しました。インドネシアのお父さん、お母さん、頭の中をいろいろな思いが駆け巡りました。「私は両親がおじいさん、おばあさんになっても絶対大事にするよ。ユキさんありがとう。私もユキさんからプレゼントもらいましたよ」私も一緒に泣きました。
このとき私は、利用者さんは本当は寂しくて「孤独」ということがわかりました。
利用者さんは年をとるにつれて、徐々に生活が変わりました。力がなくなったり、体が悪くなったり、友達が亡くなったり、家族が亡くなったりしました。子どもたちはいますが、皆忙しくて時間がありません。
だから、私に甘えたかったのかなと思いました。利用者さんの話を聞いて、気持ちを理解して、強い心の支えになりたいと思いました。
その日から、仕事ではいつも心を込めて、自分が苦しくても必ずワクワクしたすてきな笑顔で利用者さんを笑わせるようにしています。
皆さん、利用者さんが孤独にならないように、私たちが心の支えになりましょう。
外国語を使って外国で働くだけでも大変なことですが、それが人の命とかかわる看護・介護の現場なら尚更です。最初は日本語の壁、方言の壁にぶつかり、利用者様やスタッフの方とうまくコミュニケーションが取れず、家族に会いたい、もう帰国したいと何度も涙することも。
しかし、皆さんそれを自分の力で克服し、今では輝く笑顔で仕事を続けています。スピーチを聞いて、日本人の私たちのほうも、外国人の皆さんの声を聞いて寄り添うことが大切なのだと気づかされました。
全員のスピーチ動画はAOTSの公式ホームページで公開されていますので、ぜひご覧ください。
第8回看護・介護にかかわる外国人のための日本語スピーチコンテスト
https://www.aots.jp/about/publications/action/japanese-speech-contest/
*イスラム教地域で女性がかぶるスカーフ