菅野 幸子(アートプランナー/リサーチャー AIR Lab)
国際交流地域交流振興賞から地球市民賞へ
「国際交流基金地球市民賞」(以下、「地球市民賞」)は、1985年、「国際交流基金地域交流振興賞」(以下、「振興賞」)として創設されました。国際交流基金(以下、「基金」)が設立されたのは、1972年。当時、日本の経済は成長の一途で、「国際」「文化」「地方」が時代のキーワードとなっていました。1980年代に入ると、地方自治体では文化行政の振興に取り組むようになり、各地に市民会館、美術館、博物館などの多様な文化施設が建設され、海外からアーティストが招かれ国際的な文化事業が行われるようになり、国際文化交流が各地に根付くようになったのです。1987年には「地方公共団体における国際交流のあり方に関する指針」が通達され、全国各地に国際交流協会が設立され、地域における国際化がさらに進行しました。ところが、担当者の多くは海外の文化事情に関する知識・情報や人脈を持たず、ノウハウもわからないので、基金に多くの照会や相談が寄せられるようになっていたのです。このような背景から、基金では国内各地でさまざまな国際文化交流事業を行っている団体を応援しようということで「振興賞」が立ち上げられたのです。
その後、国境を越えた市民同士の交流はますます活発になり、1990年代後半には、市民社会論や非営利セクター論が盛んになってきました。同じ頃、地球の資源や環境は有限であり、同じ地球に生きる地球市民という概念も普及してきたこともあり、名称を「地球市民賞」と改めることになったのです。名称の変遷の中にも、国際文化交流の歴史が反映されているのです。
地球市民賞の意義と可能性
2016年度、地球市民賞の受賞団体は100件に達し、記念誌も刊行することができました。この中には、役割を終え、活動休止・停止になった団体も含まれますが、それにしても大部分の団体は、現在でも各地域の中核として活躍している団体がほとんどであり、代表の方々は各分野のリーダーともなっています。基金の担当者は選考の過程で、必ず現地調査のため候補団体の活動拠点に伺い、代表の方、ボランティアの方々などさまざまな形で関わっているメンバーからお話を伺うのですが、いずれの団体からも、自分たちが活動している地域への誇りと深い思いがよく伝わってきます。その思いが伝わってか、選考委員の方々も侃々諤々で選考されています。最終的に受賞団体に選ばれた団体の活動が素晴らしいのはもちろんなのですが、惜しくも受賞に至らなかった団体の中にも多くの素晴らしい活動があるのです。2016年度には、福島県の「ノルテ・ハポン~コスキン・エン・ハポン開催事務局」、熊本県の「熊本市国際交流振興事業団」、鹿児島県の「硫黄島自治会」の3団体が選ばれましたが、いずれの団体も地域を変え、新しい文化を生み出そうとされてきたことが多くの方々に共感と感動をもたらし、それが高く評価されたのだと思います。
国際文化交流の歴史は、こうした地球市民の方々がまさに国境や文化の違いを超え、アイディアや情報を交換する、一緒に考え、行動してきた上に成り立っています。もっとも国際交流は良い面だけをもたらす訳ではなく、残念なことではありますが、世界各地でさまざまな対立や紛争が起きている現実もあります。それでは、どうしたらこの限りある地球の上で、異なる文化背景を持つ人間同士が、異なる価値観、文化、宗教を尊重し合って共存していけるのでしょうか。100件の受賞団体の活動の中には、そんな世界を変える、日本の地域も変える、知恵やアイディア、ヒントが詰まっているのです。
単に賞を差し上げるという仕事に終わるのではなく、これからの地球を作り上げている地球市民としての受賞団体の活動を一人でも多くの方々に知っていただくことこそ、本賞の意義であり、同時に今後の課題でもあると思うのです。
【関連記事】
■理想の町おこし、ノルテ・ハポンと硫黄島地区会の団体活動に学ぶ(CINRA.NET掲載)
http://www.cinra.net/interview/201703-jpf
■熊本で外国人被災者支援--国際交流基金地球市民賞(alterna掲載)
http://www.alterna.co.jp/20647
2017年度の「国際交流基金地球市民賞」受賞候補団体を募集中!応募締切りは、2017年7月31日です。
菅野 幸子(かんの さちこ)
ブリティッシュ・カウンシル東京、国際交流基金を経て現職。国際交流基金在職中は、全国の国際文化交流を支援する国際交流基金地球市民賞のほか、数多くの国際文化交流に関するシンポジウム、セミナー等の企画運営を手がけた。