村上春樹でコンサートを創る ~村上春樹を『観る』・『聴く』・『語る』in シンガポール&ソウル~

大島 幸(文化事業部 事業第1チーム)



「村上春樹でコンサートを創ってほしい。」
今年2015年4月1日、私が新部署に異動した当日、突然託されたミッション。
それが、本プロジェクトの始まりでした。

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村上春樹を『聴く』inソウル

10月末~11月にシンガポール韓国(ソウル)をツアーする、村上春樹原作・蜷川幸雄演出の演劇『海辺のカフカ』に共催者として参画:『観る』

そして同時期に開催される「シンガポール作家祭」とタッグを組み、日本から村上春樹に縁の深い作家・翻訳者を派遣し、パネルを開催:『語る』

『観る/Watch』&『語る/Talk』―この2事業だけでも、大きなプロジェクト。
でも、確かに同時期に"もうひとつ"があったら。そこで生まれたのが、『聴く/Listen』でした。

とはいえ、出演者やスタッフ、舞台構成・・・4月1日時点で、"ゼロ"と言える状況。
何より本番まで6カ月を切っています。時間がありません。
新規コンサートを創る、しかも世界的に著名な作家の作品に触れる・・・ハードルは高まる一方でした。
雲をつかむような状況のなか、出来上がるコンサート像を膨らませて、イメージ図を描いてみたり、村上作品を読んでは付箋を貼りまくってみたり・・・。

そうして、作品に登場する様々なジャンルの音楽、「ジャズ」・「クラシック」・「ポップス」と、「村上作品の文章自体」をも織り交ぜる基本コンセプトと、舞台上に2台のグランドピアノを配し、ジャズトリオとクラシックカルテットが、ある時は交互に、ある時は同時に登場できる舞台イメージを固め、出演者交渉、技術スタッフとの協議、現地側準備等、枠組み作りを進めていきました。

ジャズは、山中千尋さんにシンガポール公演を、国府弘子さんにソウル公演を依頼。クラシックは、クラシックの専門性を備えつつ、ビートルズ等のレパートリーを有する1966カルテットに出演頂くことに。シンガポール・ソウルの現地ピアニストと俳優の選定も行い、協働作業も加わりました。

そして、コンサートの「肝」とも言える、曲目選定と村上作品との呼応。その創りこみにあたり中核を担っていただいたのが、コンサート監修を務めて頂いた小沼純一先生。4月下旬に小沼先生にご連絡して以来、小沼先生との作業は連日、ずっと続くことになります。

・・・そして本番。
村上作品を架け橋に、関係者全員が、音楽のジャンルを、音楽と文章の垣根を、日本とシンガポール・ソウルを、そして言語をも越えて、「せ~のっ!」と創り上げたコンサートは、満員のお客様の拍手・大歓声で迎えられました。

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(左・右)村上春樹を『聴く』in シンガポール 

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村上春樹を『聴く』inソウル

その直後に続く演劇『海辺のカフカ』も、カーテンコールでは連日スタンディング・オベーション。ソウル最終公演は、『海辺のカフカ』上演、通算100回記念でもありました。

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(上)(左・右)『海辺のカフカ』公演の様子 ©渡部孝弘

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『海辺のカフカ』が上演された劇場最寄駅構内の広告(シンガポール)

更に「シンガポール作家祭」で開催した『村上春樹を解明する』パネルでは、会場がすぐに一杯になり、立ち見にとどまらず、通路にまで来場者が埋め尽くす盛況ぶり。柴田元幸氏、テッド・グーセン氏、ローランド・ケルツ氏の一言一句に集中する観客の反応は、村上作品に注がれる世界からの熱い視線、そのものでした。

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シンガポール作家祭『村上春樹を解明する』パネルの様子
左からローランド・ケルツ氏、柴田元幸氏、テッド・グーセン氏


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(左)『観る』・『聴く』・『語る』in シンガポールの各パンフレットと入場パス
(右)『村上春樹を解明する』パネルでの観客の様子


『観る』・『聴く』・『語る』―"演劇"・"コンサート"・"パネル"を通し、まさに村上春樹作品の世界を五感で味わう機会となった本プロジェクト。
開催中から「他の国でも開催を!東京凱旋は?」という声を次々に頂き、今後の展開を夢見つつ、終了しました。

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