荻野雅由(ニュージーランド・カンタベリー大学 准教授)
原田明子(国際交流基金日本語上級専門家)
AKB48の大ヒット曲「恋するフォーチュンクッキー」(恋チュン)をベースとしたダンス動画は、多くの企業や自治体が制作しています。海外の日本語学習者が作ったものも少なくありませんが、私たちの「恋チュン」動画の特徴は、ニュージーランドのクライストチャーチで日本語を学んでいる高校生、大学生、そして日本語教師が参加し、大学の大講義室で270人が一緒に踊っていることです。世界最南端からの発信となる「恋チュン」ビデオをぜひご覧ください。
カンタベリー大学での「日本語1日集中研修」
人口約450万人のニュージーランドですが、日本語学習者数は世界で第11位(国際交流基金2012年データ)と日本語学習が盛んな国です。しかし、近年学習者数の減少が続いており、Education Countsの統計によれば、現在では1996年ピーク時の45%まで下がってきています。特にクライストチャーチでは、2011年の地震の影響による人口流失もあり、学習者数の維持が難しくなっています。
こうした状況に対応し、日本語学習の質をさらに高めていくためには、高校間および大学と高校の連携が重要となります。そこでカンタベリー大学とクライストチャーチの高校の日本語教師が協力し、日本語を学んでいる高校生を対象とした「日本語1日ワークショップ」を実施しました。「恋チュンプロジェクト」は、このワークショップの一環として、教室の壁を越えた学習者の協働と日本文化への興味を高めることを目的として企画されました。
「恋チュンプロジェクト」完成へ向けて
各高校で「恋チュン」ビデオを撮影して提出する、ワークショップ当日に参加者全員で踊る、それらを合わせて編集する、という手順でプロジェクトを進めることにしました。しかし、『ONE PIECE』や『進撃の巨人』に夢中でも、AKB48も「恋チュン」も知らない生徒もいますし、踊りを覚えて練習する時間があるのか、意欲的に取り組んでくれるのかなど不安を抱えたスタートでした。ところが、最初は気乗りがしなくても、練習を重ねるうちに一緒に踊ることが楽しくなり、ビデオ撮影に向けて自主的に特訓をする生徒も出てくるようになりました。
270人が一斉に踊る「恋チュン」
そして、ワークショップ当日。少人数に分かれての日本語授業の終了後、生徒たちが大講義室に集まりました。日本語の先輩学習者として授業に特別参加していた大学生23人も加わり、総勢270人で「恋チュン」を踊りました。多くの高校生にとっては大学の大講義室に入るのは初めて、しかもそこでダンスを踊るというのは新鮮な体験だったにちがいありません。学年も学校も、日本語の上手下手も関係なく一緒に踊る「恋チュン」を通して、日本語を学ぶコミュニティのメンバーであることを実感した瞬間でした。
私たちの「恋チュンプロジェクト」は終了しましたが、手元にはクライストチャーチの高校と大学の日本語教師と学習者の協働を象徴するビデオが残りました。このビデオに、特に最後の2分56秒に、ニュージーランドの日本語教育の活性化と発展の可能性への希望を見ることができます。演出ではない、心からの笑顔と一体感、そしてプロジェクトを通じて生まれた教師間の連携を糧に、今後も日本語教育の発展のために力を尽くしていきたいと思っています。