世界に広がる文化備品~海外拠点を支える仕事

海外事業戦略部 海外拠点課
(現 文化事業部米州チーム)
篠原 由香里



浴衣に法被(はっぴ)、セーラー服。鯉のぼりに金屏風。「オタマトーン」(明和電機初の電子楽器)に、ゆるキャラかるた。

海外では入手しにくい日本文化グッズを、国際交流基金の海外拠点に「文化備品」として貸出、展示、講義等に活用しています。小道具としてイベントや授業を彩ることもあれば、展覧会の主役を張ることも。そのラインアップと用途は実に様々です。

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(左)カイロ日本文化センターで利用されている日本の制服
(右)ローマ日本文化会館で風になびく鯉のぼり

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(左)同じくローマ日本文化会館で展示される凧や独楽
(右)日本風の設えには欠かせない金屏風(トロント日本文化センターの様子から)


中でも常に需要があるのは伝統文化グッズ。特に伝統玩具は手にとって遊べるとあり親しまれやすく、意外な地で継承者を育んでいます。例えば囲碁。国際交流基金カイロ日本文化センターで囲碁のレッスンを開始したところ、マンガ好きの高校生、数学が得意な社会人など幅広い年代にブームが席巻。今では受講生自ら「エジプト囲碁クラブ」を立ち上げ、活動日以外にもオンライン囲碁サイトで対戦したり、セルフラーニングプログラムを作成するなどして囲碁の世界を楽しんでいます。

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(左)エジプトの若者を魅了している囲碁
(右)囲碁の解説書にアラビア語で書き込み


一方、現代文化グッズも大人気。アザラシ型ロボット「パロ」はその一例です。2002年にギネスブックに登録された「Most Therapeutic Robot(世界一セラピー効果があるロボット)」の肩書き通り、その愛らしい動き、本物そっくりの体温、周囲の状況を認識して成長していく高い学習能力は感動もの。高齢化先進国ニッポンが取り組む新しい福祉の伝道者として一役買っています。

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シドニー日本文化センターのスタッフもメロメロの「パロ」

時にはオリジナルの文化備品を作成することもあります。例えばこれは、日本の世界遺産を紹介する写真パネルセット。写真家三好和義さんが撮影した美しい景観の数々は、各国の美術館やギャラリーで大きな反響を呼んでいます。2009年には米国ディズニーワールドの日本館でも展示されました。日本の情報が極めて限られている地域の学校、市役所、ホテルの一角で展覧会を催すこともしばしばです。東日本大震災を経た今、日本の魅力を発信していく意義はより一層大きいといえるでしょう。

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世界各国で折に触れて展示される「日本の世界遺産」(ローマ日本文化会館の様子)

ところでこれら文化備品について、世界各国の海外事務所からの要望聴取、調達や新規作成、海外への送付は、東京本部のスタッフが数人で担当しています。
「行事担当」、「おもちゃ担当」、「服飾担当」などに分担し、限られた時間と予算内で多岐に渡る物品をかき集めるのは一苦労です。納品後は会議室を貸し切り、物流企業のスタッフさながら黙々とダンボールに詰めていきます。このような地味で地道な作業も、こうして表舞台に出ている姿を一目見れば報われるというものです。

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(左)会議室で仕分けられる「文化備品」
(右)「Fragile(割れ物注意)」のステッカーを貼られて発送を待つダンボール群


国際交流基金は、広い意味で、また長い視点で、人に投資する機関です。その傍ら、人が集まる場所、集まるきっかけとなる導線を整備することで、未来の交流の種をまいています。今日もどこかで活躍する文化備品が、日本と外国を、ゆくゆくは人と人をつないでくれると信じてやみません。



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