マドリード日本文化センター 上野宏之
日本人がスペインと聞いて思い浮かべるものはなんだろう。「バルサ」、「ガウディ」、など、「闘牛」「フラメンコ」などアンダルシア地方のものと並んで半分ちかくをバルセロナゆかりのものが占めている。そのバルセロナにもうひとつ、日本人にとって興味深いイベントがある。年を重ねるごとに大きくなり、いまや4日間の会期中7万人近くを動員する世界でも最大級のオタクの祭典のひとつ「サロン・デル・マンガ」である。
毎年10月終わりから11月はじめにかけて開催されるこのイベントでは、広いイベント会場にマンガ、DVD、グッズを販売するブースが立ち並び、コスプレの若者であふれかえる。芋の子を洗うとはこのことだ。この会場では入りきらないので、来年はさらに幕張メッセ級(?)の大きい会場に移るというのもむべなるかなである。2階には展示スペースや講演会場、イベントスペースがあり、展示、講演、日本人若手女性音楽家4人組(最初高校生と間違えて、どこの学校?とか聞いてしまった。失礼!)によるアニソン公演などが行われるほか、メイン会場から徒歩10分ほどの体育館と映画館でコスプレ大会やアニメの上映が行われる。
日本人若手女性音楽家4人組によるアニソン公演
コスプレを見ていると、やはり『ワンピース』『ナルト』などの少年向けマンガが一番多いようだが、昔懐かしい「ラムちゃん」(さすがに『ダーリン、待つっちゃ!』とは言ってなかったが)や刀を挿したサムライ・コスプレもいる。(去年はほんとにサカヤキを剃って髷をおおたぶさに結った新撰組がいた!)また、『クレヨンしんちゃん』が結構な人気を誇っているが、他の国ではあまり見られない現象だそうで興味深い。
試みにサロン・デル・マンガの事務局長・カルレス・サンタマリアさんに、どうして「日本のマンガ・アニメが好きになったの?」と聞いてみることにしよう。言下に「『ヘイジ』だよ、『ヘイジ』!」とのたまう。「銭形平次」のことではない。「アルプスの少女ハイジ」をスペイン語読みすると「ヘイジ」になるのだ。彼はいかつい顔の、子供が見たら泣いちゃうようなおじさん(カルレスさん、ごめんなさい!)なのだが、目を細めて実に楽しそう。クララが立ったシーンでも思い浮かべているのだろうか。ほかにも「マルコ」(『マルコ・ロッソ』や『ちびまる子ちゃん』ではなく、『母を訪ねて三千里』のほう)とか、「フランダースの犬」とか、「カルピス子供劇場」オンパレードであった。70年代あたりのテレビアニメが今日のマンガ・アニメ人気の礎なのだなあ、と認識を新たにした。各国ごとにどういうアニメ・マンガが人気があって、その文化的背景に切り込むような比較研究をしたらさぞかし面白かろう。
さて、我らがマドリード日本文化センターでは、2010年のサロン・デル・マンガから会場にブースを出展、「エリンが挑戦!にほんごできます」と「アニメ・マンガの日本語」の2つのウエッブサイトをパソコンで紹介し、日本語を楽しく学ぶお手伝いを実施中。アテンド要員は主に大学で日本語を学んでいる学生さんたちだが、日ごろの学習成果を現すのはこのときと大いに張り切る。メインキャラクターの「エリン」「ホニゴン」「アグナム」「エミーナ」の4つを等身大フィギアにしてブース入り口に設置したら写真を撮る親子連れなどが多く訪れ、早くも名所ブースに成長中!?
国際交流基金出展ブース
2011年は別件で講演に招聘したオタク文化と日本のものづくりを研究・発信している川口盛之助さんにサロン・デル・マンガでも講演していただいたほか、コスプレサミットの審査員としても協力いただいた。コスプレサミットの優勝者は名古屋で行われるワールド・コスプレ・サミットにスペイン代表として参加できるそうで、各チーム大変な熱気だ。川口さんもスペインのコスプレやオタクたちのレベルの高さに感心することしきりで、「日本のオタクたちもぜひ見にきたらいい!」と絶賛されていた。また、日本のものづくりを象徴する、デコ系(デコ携帯とか)、癒し系(無限に出せる枝豆とか)や便利系グッズ(超便利な文具類いろいろ。外国製の紙ファイルやホチキスを使うと絶望的な気分になる)を紹介したらみんな興味シンシン。日本人ならではのおもしろグッズ、便利グッズを寅さんのような一流のテキヤさんが展示即売したら飛ぶように売れるだろうなあ。
コスプレサミットの優勝者はワールド・コスプレ・サミットにスペイン代表として参加
日本の作家の方々、業界の方々、オタクの皆さん、スペインに来るならバルセロナ、サロン・デル・マンガをぜひ訪ねてみてください。なにかしら嬉しい&面白い発見があると思いますよ!