国際交流基金関西国際センター 冨岡 直子
李秀賢(イ・スヒョン)さんのことを、覚えていらっしゃいますか──。
2001年、JR山手線新大久保駅で、線路に落ちた日本人乗客を助けようとして事故死した韓国人留学生です。
彼の勇気ある行動を顕彰する「李秀賢氏記念韓国青少年招へい研修」というプログラムを実施し、韓国で日本語を学習している高校生を日本に招へい。日本語及び日本の文化・社会への理解を深めてもらうのが目的。今年度は2011年1月17日から27日まで、韓国各地から30名の元気な高校生が来日しました。
ホームステイ先の家族の
細かい気配りに感動!
参加者のうち、女子高生2名にお話をうかがいました。
オ・ソンジンさん(大邱外国語高校)は、小学校4年生のとき、図書館でたまたま日本語の本を見て、ひらがなのかわいらしさと不思議さに魅かれて、独学で日本語の学習を始めました。日本のドラマやバラエティー番組を見ながら、独り言を発して練習したとか。特に日本のお笑い番組が大好きだそうです。
今回、研修生たちは大阪府立佐野高等学校の生徒さんのご家庭で1泊2日のホームステイをしました。
「家族みんなが温かく迎えてくれたのが感動的でした。お風呂に一番先にどうぞ、と勧められたのですが、入りにくいなと思っていると、察してくれて、後でもいいよと。細かいところまで気を配って下さって、とても日本人的だと思いました」
今回、日本に来て、直接いろんなことを知ったり、感じたりできたのは、最高の経験になったそうです。経験した日本を韓国の人に伝えていきたいとのことでした。
「私は今、日本の大学を目指しています。将来は学者として、社会学の研究をして、社会のさまざまな問題に対して、解決策を出していける人になりたいです」
一生に一度の出会いを
大事にしていきたい
11日間という短い期間の中で、東京、京都、広島の見学も行いました。ペク・ハンスルさん(大田外国語高校)は「日本の街はすごくきれいで、どこに行ってもゴミがないのが、印象的でした」。
ハンスルさんは小学校5年生から日本語の勉強を始めました。偶然聴いたJポップが気に入り、ドラマや映画にも関心を持つように。最初は、歌の歌詞やドラマの字幕で、日本語を覚えたそうです。
関西国際センターでは、「アニメ・マンガの日本語」という教材サイトを作って、日本語の学習支援を行っていますが、やはり、日本のポップカルチャーをきっかけに、日本語や日本文化に興味を持つ人が多いようです。
ハンスルさんの好きな日本語は「一期一会」だそうです。
「日本人はとても優しくて情が深いです。ホームステイ先の人とは、別れるのが悲しくて、最後は抱き合って泣きました」
「一期一会の言葉は、佐野高校での茶道の時間にも教えてもらいましたが、韓国でもそのまま外国語として使っていて、日本語を勉強していない人でも知っています。今回たくさんの人に出逢って、人と人の縁の大切さを感じました。これからも一生に一度の出会いを大事にしていきたいです」
将来は外交官になって、日本と韓国の関係をよりよくしたいそうです。今回の研修では、特に日本の同世代との交流によって、日本に対する理解を深めることができたとうれしそうに話してくれました。
研修の修了式が行われた1月26日は、ちょうど李秀賢氏の10周忌でした。日本と韓国の架け橋となることを夢見ながらも、若くして他界された李秀賢氏──。当センターでは、これまでに総勢170名ほどの研修生を受け入れてきましたが、こうしたさまざまな新しい出逢いをもたらしてくれた氏の勇気に、改めて感謝をしたいと思います。