JF便り 日本研究・知的交流編・15号 公開シンポジウム「世界日本研究者フォーラム ~変わりゆく日本研究:世界の現場からの報告~」開催報告

日本研究・知的交流部 企画調整チーム


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2009年10月12日から14日、国際交流基金(ジャパンファウンデーション)の主催で、12カ国/16名の日本研究者をお招きし、箱根にて「世界日本研究者フォーラム2009」を開催しました。海外における日本研究の内容や役割が大きく変化しつつある中、多様化・新規化している、世界各地の日本研究の抱える様々な課題を討議すべく、主要国・地域で中核的役割を担う日本研究者にお集まり頂きました。非公開で行なわれた箱根での討議内容を総括し、10月15日公開シンポジウム「世界日本研究者フォーラム~変わりゆく日本研究:世界の現場からの報告~」をジャパンファウンデーション本部にて開催いたしました。モデレーターには、京都造形芸術大学名誉学長の芳賀徹教授、コメンテーターには、朝日新聞社ジャーナリスト学校長の野村彰男先生をお迎えしました。


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【参考資料】
「世界日本研究者フォーラム2009」プログラム、メンバー一覧 (PDF/19KB)
公開シンポジウム会議記録 (PDF/204KB)
Harald Fuess(ヨーロッパ日本研究協会会長)「ヨーロッパの日本学‐ 通覧‐ 2009(PDF/322KB)
Patricia G. Steinhoff(米国/ハワイ大学)「米国における日本研究の現状」(PDF/268KB)
徐 一平(中国/北京日本学研究センター)「日本語と日本研究 中国の日本語教育と日本研究」(PDF/400KB)

セッション1.  「各国・地域における日本研究の現況」

jf-stu15-2.pngこのセッションでは、各国・地域における日本研究の新たな動きについて中国/南開大学の楊棟梁教授によって報告されました。中国では、日本研究者の世代交代や研究対象分野の多様化が進行しており、また、IT普及の影響等により、他分野の学者や一般の人々の日本研究への参入について、報告されました。日本研究者について、変化が見られる一方、研究者間の交流が少ないため、情報交流やネットワーク形成が課題となっており、ジャパンファウンデーションは世界の日本研究者の仲介役としての役割が重要であるとの指摘がありました。会場席の豪/オーストラリア国立大学のANDERSON, Kent教授からは、ネットワーク形成について、一度に構築することは難しいが、2カ国間・2地域間からまず取り組むことはどうか、豪州と東南アジア、欧州と米国の例が挙げられました。特に欧州と米国の日本研究者間の交流については、以前の様に日本を経由して行なわれるのではなく、2国間で直接行なわれているという報告がありました。


jf-stu15-3.pngセッション2. 「地域研究と日本研究」

このセッションでは、日本研究は各国で成熟してきており、日本研究が地域研究に含まれるか否かに必ずしもこだわる必要がないとの報告がなされた中、いくつかの問題点について、米国/ワシントン大学のTAYLOR, Veronica教授によって挙げられました。その一つに、地域レベルでの日本研究ネットワークの発展が挙げられ、地域と地域をつないだ形の共同活動は日本研究にとって意義深く、その共同活動が自発的な日本研究のグローバルネットワーク作りの重要な一歩になるかもしれないとの指摘がありました。各国の状況をより正確に把握し、日本研究を分野としてどのように発展させていくかを、日本研究者とともに考えていくことが、ジャパンファウンデーションの今後の課題であるとの指摘がなされました。


jf-stu15-4.pngセッション3. 「アジア研究と日本研究」

独/ミュンヘン大学
WALDENBERGER, Franz教授
このセッションでは、アジア研究の中の日本研究について、独/ミュンヘン大学 WALDENBERGER, Franz教授によって報告されました。各国の大学は、日本・中国・韓国研究をアジア研究という名称のもとに組織化する必要性を感じているが、その名称の下に組織の面で再編した場合でも、その内容と量的なウェイトに深刻な問題が生じることは、ほとんどないと報告されました。その中で、今後の重要な課題として、日本はアジア諸国にとって重要な参考モデルであることから、日本研究はアジア各国の比較研究において重要な役割を果たしており、将来のアジア地域の統合過程においての日本の役割が挙げられました。一方、西欧諸国にとって"Japan still matters as Japan"とも言えるのは、エネルギー、環境、少子高齢化、経済と社会における格差の拡大等、先進国と多くの問題を共有しているからとの報告がありました。会場席の中国/北京日本学研究センター長の徐一平教授からは、アジアでは、韓国の学生が中国に留学して中国語と日本語を学んでいる事例、中国人が韓国で日本研究を行なっているという事例、中国と韓国で日本に関する共同ゼミも行なわれているという事例が報告されました。


セッション4. 「日本語と日本研究」

jf-stu15-5.pngこのセッションでは、日本語学習者が増加している中、いかに日本研究に結び付けていくか、日本語以外による日本研究をいかに評価するかという問題について、韓国/漢陽大学の李康民教授によって報告されました。欧米では、日本研究であっても共通言語である英語を媒介として共通の基準に沿って研究が進められ、教授されているのが現状です。中国では、日本語学習者数・高等教育における日本語学習者数ともに著しく増加しており、日本語と日本研究がうまくかみ合っています。またフランスでは、中国に対する関心の高まりが日本語学習に影響を与えていますが、マンガ・アニメ・ゲームのポップカルチャーの浸透により大学の日本語学習者数が増えています。現在は日本語を媒介としたネットワークが形成されつつあり、それを知らないのは日本人だけという状況もありうるとの指摘がありました。
例えば、東南アジアの学生が中国南部に留学して日本研究を行なう、韓国の学生が中国に行って日本研究について意見交換を行なう等、日本語を共通言語とする交流が進んでいるとの報告がありました。


jf-stu15-6.png総括セッション

ヨーロッパ日本研究協会会長のFUESS, Harald教授による総括セッションでは、日本研究の支援策として海外日本研究者間の連携の重要性が指摘され、日本研究の地域ネットワークが連合して、日本研究者の世界総会なるものを日本で開くことが出来ないかとの提案がなされました。また国際共同研究が、今以上にもっと行なわれていいのではないかという提案もなされました。

会場来場者からのコメント

公開シンポジウムには、113名の来場者にお越し頂きました。モデレーターの芳賀徹教授のユーモア溢れる司会で、和やかな雰囲気でシンポジウムが進行しました。アンケート回答者(29名)のうち、9割以上の方から「とても満足」「まあ満足」との回答を頂きました。「とても満足」と答えた方からは、「内容が大変興味深く、考えさせられた」「多くの研究者の様々な見解を聞くことが出来た」「視野がもっと広くなった」との意見を頂きました。一方、「各セッションの時間が短かった」「報告者と一般参加者との交流が不足していた」との意見も頂きました。


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ジャパンファウンデーションでは、世界の日本研究者を一堂に会しフォーラムを開催するのは、初めての試みでした。特に箱根でのフォーラムにご参加頂いた、12カ国/16名の参加者からは、普段接することのない分野・地域の日本研究者と知り合うことが出来てとても良い経験になったとの声を多数頂き、主催者一同、とても光栄に感じております。ジャパンファウンデーションは、今後この様な機会を積極的に設けていけたらと考えております。

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