日本研究・知的交流部
アジア・大洋州チーム
国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、2009年3月7日にシンポジウム 「社会的企業が拓く日韓の新たな出会い」を東京のジャパンファウンデーション本部にて行ないました。
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■基調講演
本シンポジウムでは、日韓の社会的企業の専門家と実践者が集まりました。基調講演は、希望製作所 常任理事であり、人権弁護士であるパク・ウォンスン氏より、「韓国の社会的企業の特徴・役割・課題」と題して、韓国の寄附文化や社会的企業の成功の理由について語られました。パク・ウォンスン氏は、1970年代は学生運動家、80年代からは人権弁護士として活動され、今日に至るまで韓国をよりよい社会に変えるために尽力してきました。
パク・ウォンスン氏の基調講演
韓国に寄附文化を根付かせたいと始めた寄附金集めのサイトは、オンライン募金に焦点を絞り、財務やスタッフの給与まですべて公開する透明性・信頼性を打ち出したことで共感を呼び、2008年には130億ウォンの募金を集めることに成功しました。さらに、リサイクル文化のあまりなかった韓国で100店舗を出店し、200人のスタッフと5000人のボランティアによって運営されているリサイクルショップ「美しい店」、廃材のビニールシートからバッグを作りブランド化した企業など、新しいアイディアを次々にビジネスとして展開してきました。
韓国は、植民地時代、軍事政権時代を経て民主化し、財閥中心・大企業中心で経済が発展してきたそうです。97年のIMF危機以降、大企業中心の構造が崩れてきましたが、財閥優位の構造はまだまだ残っているということでした。それをもっと民主的で自立的な発展にしていくために、地方の企業やベンチャー企業を支援する仕組みや、アイディアをオンライン上で集める仕組みなど、新しい試みに果敢に挑戦しています。
■韓国の社会的企業
その後は、日韓社会的企業のベストプラクティス紹介です。韓国のベストプラクティスとして、パク氏の話にも出たリサイクルショップ、「美しい店」の紹介から始まりました。発表者は「美しい店」の政策局長であるキム・ジェチュン氏です。この店は、「韓国のリサイクル文化を変えた」と言われています。韓国では中古品への拒否感があり、これまでリサイクルをするという文化がほとんどありませんでした。しかし、「美しい店」は店舗のデザインや接客などでよいイメージを作り、多くの人が買えるように商品を多く確保して、多いときは一月に4~5店舗を新規オープンするなどの拡大戦略を打ちました。さらに、新聞社と1年間キャンぺーンを行ない、毎週の広告掲載、40分のテレビ番組を毎週放送、イベントも行なうなど、認知度を一気に上げました。この店では、ひとりが使う金額が平均2000ウォンでありながら、年間124億ウォンの売り上げを上げており、これを見ても「文化を変えた」という言い方ができるのではないかと思います。
次に、ソウル市立青少年職業体験センター(HAJAセンター)の副センター長のキム・ジョンフィさんより、リサイクル用品で作った楽器でアートやパフォーマンスを行なう団体「ノリダン」の紹介です。「ノリダン」はHAJAセンターのプロジェクトのひとつとして2004年に始まりました。楽器奏者、演出家、作曲家など、芸術を専門としている人と、そうでない人、11人が集まってスタートし、車のホイールなどの廃材から楽器を作り、それを演奏して公演やワークショップを始めました。学校をやめてHAJAセンターの運営するフリースクールに通っていて、ノリダンに入った若者もいれば、会社員をやっていて「人生を変えたい」と入った人、定年後もまだ働きたいと門を叩いた60代の人など、様々な人がいて、現在は87人が働いています。ビジネスモデルとしては、公演収入が50%、ワークショップなどの教育事業の収入が25%、楽器の販売や公園などへの楽器の設置による収入が25%で、公演以外の分野の収益を上げることが今後の目標です。
最後は、韓国の社会福祉法人「WeCan」です。「WeCan」は障害者を雇用し、クッキーを作って販売していますが、障害者が作っているからではなく、商品に力があり、口コミでファンが増えていきました。「買ってあげる、ではビジネスとして継続できません」と代表のチョ・チンウォンさんは言います。雇用されている人たちを同列に扱うのではなく、仕事のできる人はスカーフを巻き、衛生検査や作業の管理などの責任ある仕事が任されるなど、普通の企業のような能力主義的なシステムを取り入れることで仕事へのモチベーションをあげる工夫をしているそうです。
日韓の社会企業家によるベストプラクティス紹介
■日本の社会的企業
日本のベストプラクティスは、横浜のドヤ街の地域再生プロジェクトを行なっている「コトラボ合同会社」の発表からでした。日雇い労働者が多く、「治安が悪い、汚い」などのイメージが強かった地域に国内外の旅行者やアーティストを呼び込み、人が交流する仕組みをつくった「コトラボ合同会社」代表の岡部友彦さんは、「地域の人々の意識が明らかに変わった」といいます。労働者が寝泊りする場所だったドヤ街に旅行者が多く訪れるようになり、ドヤのオーナーは旅行者がどうすれば快適に過ごせるかを考えるようになりました。また、旅行者と交流したいと思う地域の人が増え、何より自分たちの地域のことを「なかなかいいじゃないか」と思い出す人が増えたそうです。最近はホステルの数が増えているそうですが、「まねをされるのはビジネスモデルが成功している証拠」と語るのが印象的でした。
続いて、ダウン症の人たちの感性をアートで引き出す「アトリエ・エレマン・プレザン東京」です。ダウン症の人達が自分のリズムで制作を続けていける環境を創り、展覧会やアート作品の販売などを行なっています。「事業に共感してくれる人や企業が多い。美大の学生さんがボランティアに来てくれるなど、若い人がたくさん来てくれることに手ごたえを感じている」と代表の佐藤よし子さんは語ります。
最後に、日本のエコ商品や技術と海外との橋渡しをしている「株式会社エコトワザ」の代表、大塚玲奈さんです。「外国人は日本人が思っている以上に日本の商品や技術に魅力を感じている。日本には優れた商品を作っている小さな企業や地方の企業がたくさんある。その両者を結びつけるものが今まではなかった」という新しい着眼点を持ち、デザインやイメージにこだわり、環境問題の消極的・禁欲的なイメージを覆すことをモットーに事業を展開しています。
■ディスカッション
ベストプラクティス紹介の後は発表者によるパネルディスカッションが行なわれ、日韓の社会の共通点やお互いに学ぶべき点、行政との関係のあり方、マーケティングなどについて熱く議論が交わされました。
会場からの質問もありました
日本と韓国は、急激な社会の変化に伴い、医療・福祉・教育・環境など生活に直結する分野でさまざまな課題に直面しています。こうした課題に取り組む新しい動きとして、今後、両国では「社会的企業」の存在がますます重要になっていくことは間違いありません。
今回のシンポジウムと同様に、日韓の社会的企業の専門家と実践者を集めた会議・シンポジウムを、2010年初めに韓国で開催する予定です。ジャパンファウンデーションは今後もこのネットワークを活かし、よりよい社会創りのために活動する日韓関係者同士の交流を発展させていきたいと考えています。