日本研究・知的交流部
アジア大洋州課
日本研究・知的交流部/アジア・大洋州課では、2008年3月に日本と韓国との間の専門家交流の一環として、「日韓両国の高齢者福祉 ~ 映画『折り梅』をめぐる対話」事業を韓国・ソウルにおいて実施しました。この事業を企画した背景としては、日本社会・韓国社会ともに、非常に早いスピードで社会の高齢化が進行し老齢人口が増え、その状況に対する対策を講ずることが緊急の課題となっている、という現実があるからです。
日本は2006年に65歳以上の高齢者人口が2,660万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)が20%を超えました。一方、韓国も世界で最も急速に高齢化が進む国の一つであり、2029年には超高齢化社会を迎えると言われています。
このように急速に高齢化が進む日韓両国において、高齢化によって生じる様々な問題への対応が急務となっていますが、そのような状況の中、韓国でも今年7月から日本とドイツの制度を参考にした介護保険制度(「老人長期療養保険法」)が新たに施行・導入されます。また日本でも後期高齢者医療制度が導入され、社会の各層からさまざまな反応と議論をよんでいます。このようなタイミングで日韓両国の専門家同士が、高齢者福祉をめぐるさまざまな問題とその対応策について意見交換を行なうことは、今後の取り組みを考える上で非常に有意義だと考えました。
本事業では、アルツハイマー型痴呆症の老齢女性とその家族を描いた映画「折り梅」の監督である松井久子氏と、日本で高齢者福祉に取り組む専門家5名を韓国に派遣しました。彼らは韓国で、韓国側関係団体への訪問(ソウル市立西部老人専門療養センター、松坡老人総合福祉館、清岩養老院)/現場の視察、「折り梅」の上映、および高齢者福祉および映画関係者との対話などを通じ、お互いが行っている施策等について意見交換を行なうとともに、日韓で高齢者福祉に携わる専門スタッフ同士が対話を行なうシンポジウムも実施しました。
映画の上映やシンポジウムは、地味である意味で深刻なテーマであるにも拘らず、多くの人が来場されました。特に映画上映には予想を超える460名以上の来場者があり、2日目の上映日には会場に入りきれない観客用に会場の外のモニターを使って、特別の上映も行ないました。
今回の対話・交流事業を通して、日韓間の高齢者福祉に携わる方々同士のネットワークの構築に貢献できたとすれば、本事業を企画・実施した当基金としては嬉しい限りです。
アジア・大洋州課では、今後も日本とアジア・大洋州地域の専門家同士の対話と相互理解につながるような事業を、時宜に適ったテーマを選びながら実施していきます。