清田とき子
造形美術課
東京オペラシティアートギャラリーの展示風景
2006年秋に開催されたヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館のROJOシアターとメンバー
すでにご存知の方も多いと思いますが、本展は2006年秋に開催されたヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館の帰国展です。
帰国展といっても、ヴェネチアの日本館は250㎡、それに対して東京オペラシティアートギャラリーは約800㎡の展示面積があります。
ヴェネチアでは藤森建築の写真パネル、木の塊を削って制作された模型、竹を組み縄を編んで作った小屋の中での路上観察学会の上映会(ROJOシアター)、焼き杉の壁などが展示の中心でした。
コミッショナーの藤森照信氏は、帰国展ではさらに近未来の都市模型「東京計画2107」の模型や土塔の制作を行ない、また路上観察学会については今までの歩みのすべてを展示し、まさに藤森ワールド全開、必見の展覧会となりました。
2006年のヴェネチア・ビエンナーレ建築展の総合テーマは「都市―建築と社会」でした。このテーマに即して、各国展示も都市や都市開発を扱ったものが多かった中、日本館は、「見たことがない」のになぜか「懐かしさ」を覚える藤森建築と、都市の中で「無意識」に作られた造形を採集・展示する、きわめてユニークなものでした。
ヴェネチアの日本館に(靴を脱いで)はいると多くの来館者はほっとし、くつろぎ、自然の材質と香りにつつまれ、にっこり微笑んでいたとききます。2カ月間の入館者数は6万人を超え、カタログは最初の3日間で1,000部が売り切れ、追加分をあわてて日本から送りました。
金獅子賞こそ逃したものの、10月の授賞式において、「フォルムの完全さ」と、「来館者に大きな喜びを与えた」ことにより、大きな功績があったと評価されました。
帰国展の展示風景
第一室では、チェーンソーなどの
器具も実物で展示
第二室の小さな入り口
東京計画2107
ROJOシアター
ヴァージョンアップした帰国展は、第一室で藤森建築の写真パネル・模型とともに、壁の塗り方、木の板の削り方、屋根の葺き方が、使用されるチェーンソーなどの器具とともに実物で示されています。部屋の中央は半分が焼き杉、半分はアコヤ貝を埋め込んだ壁により、分けられています。
第二室では茶室のにじり口にも似た小さな入り口を、靴を脱ぎ、腰をかがめてくぐると、畳のような、わらのような、田園のようなにおいがします。そして高さ5メートルの土塔とそれをとりまく小さな土塔が訪問者を迎えます。
その後ろには「東京計画2107」の大きな模型、22世紀の東京では東京タワーが折れ曲がり水没しています。土塔は東京の水没後、自然に生えてきたもの(とのこと)。
第二室の奥には高さ3メートルのROJOシアター。中で床に転がりくつろぎながら、路上観察学会員でありビエンナーレ出品作家でもある藤森氏、赤瀬川原平氏、南伸坊氏、松田哲夫氏、林丈二氏が36年間にわたり採集した物件のスライドショーを、ご本人達によるナレーションを聞きながら楽しみます。
第三室は路上観察学会の成立から現在に至るまでの歩みを資料展示しています。
居心地のよさの秘密は、制作の過程における仲間や友人(縄文建築団)による「手作り」にありそうです。ヴェネチアと東京でおのおの作られたROJO シアターは、藤森氏、路上観察学会および友人や学生、主催者スタッフが手作りしたものです。
和気あいあいと、荒さを残しながらも丁寧に時間をかけて作っていく。それが展示の中に生きて、ほのぼのとした感触と、自宅に招かれたような安堵感を訪問者が味わうことができるのではないかと思います。
このような空間で、現在と未来と過去が自在に行き交う体験を是非お楽しみください。7月1日まで開催しております。
路上観察学会