カイロ大学日本語日本文学科 国際交流基金賞受賞記念エッセイ2 はこちら
「ピラミッドがくれた夢」
サーレ・アーデレ アミン(Dr. Saleh Adel Amin)
日本とエジプトの架け橋を築く カイロ大学日本語日本文学科
ワリード・ファルーク・イブラヒム(Walid Farouk Ibrahim)
"文化間対話" というコトバを21世紀になってから頻繁に耳にするようになった。カイロ大学文学部日本語日本文学科は、ささやかながら、そして、密かにその役割を頑張って実現してきた一つの機関であることを実感している。
1974年に日本語日本文学科が設立されてから、日本語や日本文学・歴史・思想などの授業を通じて、エジプトと日本を隔てる地理的・文化的な距離を越えて日本に近づこうとする熱心な学生が多く学んできた。
筆者は、その多くの学生の一人であるが、日本語学科に入学するまでは、日本について、島国、地震が多い、そして、何よりも経済大国で、短い間に急速な発展を成し遂げたジャパニーズ・スマイルという程度の常識しかなかった。当時、それのぐらいの常識だけでも、日本語と日本文学に関する関心を高める動機になった。日本語学習の動機があって、勉強を終えた後の目的、すなわち、勉強したことをどのようにして仕事で活かせるかというと、当時は観光ガイドの仕事しか目的として思いつかなかった。しかし、入学してから4年の間、日本人の先生や日本人の友達、そして、教科書や日本への訪問を通して日本語や日本文学など日本についての知識が増えていくと、だんだん考え方が変わってきて、もっともっと勉強を続けたいと考えるようになった。例えば、1989年、3年生と4年生の間の夏休みに国際交流基金の成績優秀者プログラムに参加できたことは、刺激になった。また、日本の文学や小説を読めるようになって、特に、4年生になってから、川端康成の卓越した叙述、繊細な表現にひかれて、言語を研究する道を選んだ。
思うに、カイロ大学の日本語日本文学科は、設立から現在にかけて、しっかりした日本とエジプト間の架け橋を築いてきたのであるが、これからの課題は、その架け橋を有効に機能させるためにどうしたらいいか考えることだ。つまり、次の段階は、ただ日本語学習者や研究者を養成するのみならず、その学生たちや研究者たちの動力を包みこみ、総合的な力を発揮できるような拠点として機能することだと期待される。例えば、両国の国民に互いの文学・生活様式・思考や価値観を紹介できる書物の翻訳活動を展開することや、エジプトの教育省と協力して、ボランティアで小・中・高学校に日本を紹介できる人材を派遣することなどが考えられる。
エジプトだけでなく、アラブ世界や全世界が変わろうとしている状況の中で、日本語日本文学科の果たすべき役割が拡大している。役割を果たすためには、現在状況の中では、ただ努力するだけで通用しなくなった。その努力をどのようにしてどの方向に向かわせるかが大事なのである。
ワリード・ファルーク・イブラヒム(Walid Farouk Ibrahim)
カイロ大学文学部日本語日本文学科准教授
研究分野:語彙意味論。テーマ:アラビア語・日本語の語彙比較対照。
1990年カイロ大学文学部日本語日本文学科卒業。1994年に国費留学生として来日、1997年、学習院大人文科学研究科日本語日本文学専攻博士前期課程修了、2001年に同大学同科日本語日本文学専攻博士学位取得。
著書
2010年:国際交流基金『基礎日本語学習辞典』アラビア語版、共訳
2007年:『アラビア語話者のための日本語文法』
2006年:『父と暮らせば』井上ひさし著、アラビア語訳
2005年:『浅草鳥越あずま床』井上ひさし著、アラビア語訳
2003年:『アラビア語シソーラス』絢文社
現在、国際交流基金の日本研究フェローとして来日中。
カイロ大学文学部日本語日本文学科
(Department of Japanese and Japanese Literature, Faculty of Arts, Cairo University)
http://www.jpf.go.jp/j/about/award/index.html
1974年学科設立。中東・アフリカ地域で最初に発足した日本語・日本研究分野の重要拠点であり、長年にわたり日本語・日本文化研究者の育成及び日本語の普及を行っている。文学から政治に至るまで、同学科の卒業生によって数多くの日本に関する書籍・翻訳書が出版され、アラビア語圏における円滑かつ効果的な日本文化理解に大きく貢献し続けているほか、高度な日本語能力を駆使して世界各地で活躍する卒業生を多数輩出している。
2011年、国際交流基金賞 日本語部門を受賞。
カラム・ハリール(学科長)講演会
http://www.jpf.go.jp/j/about/award/11/index.html#02
「エジプトの日本語教育とカイロ大学の歩み」当日配布資料(PDF)