第34回となる「国際交流基金地球市民賞」の受賞団体は、小松サマースクール実行委員会(石川県小松市)、一般社団法人グローバル人財サポート浜松(静岡県浜松市)、特定非営利活動法人パンゲア(京都府京都市)の3団体に決定しました。それぞれ異なるアプローチで、多様な文化の共生、相互理解を推進する市民団体。各団体の代表者たちに、この受賞をステップとした今後の展望を語っていただきました。
左から、パンゲア副理事長の高崎俊之さん、小松サマースクール実行委員会代表のステファン・フシェさん、理事の光井一恵さん、グローバル人財サポート浜松代表理事の堀永乃さん、パンゲア理事長の森由美子さん
撮影:Keith Tsuji
小松サマースクール実行委員会
石川県小松市で毎年開催されている、大学生による日本の高校生を対象とした6泊7日のサマースクール。高校生たちが多様な年代や文化背景を持つ人たちと出会う機会をつくり出している。
http://komatsu-ss.org
—代表のステファンさんは2011年に来日。光井さんは、そのときのホームステイ先とのことですね。
ステファン・フシェ(以下、ステファン):そうです。プリンストン大学の外郭団体PII(プリンストン・イン・石川)が主催する2か月間のプログラムで小松市にホームステイしました。光井さんのことは「おかあさん」と呼んでいます(笑)。その後、小布施町(長野県)のHLABという、ハーバード大学を中心としたアメリカ、日本の大学生が運用するサマースクールにも参加して、日本語だけでなく文化も学べ、交流できるこのプログラムを、小松にも移植できないかということになりました。
光井一恵(以下、光井):ステファンとの関わりから始まった小松サマースクールのアイディアでしたが、それまで主婦だった私は、プレゼン用の企画書を書いたこともなく、慣れない頃は睡眠時間もないくらいでした。それでも地方の子どもたちに、世界の文化との出会いをつくりたいと努力しました。参加する日本の高校生たちにとっては、高揚感に満ちた一週間です。最初はおっかなびっくり、でもコミュニケーションをとるうち、「ハーバードのだれだれ」とかではなく、肩書きや人種に関係ない一人の人間が見えてくる。最初の不安が霧散して、一生の友情が育まれていく様子を見ています。
小松サマースクールでは、日本の高校生たちが英語を使って発言を出来るよう、様々な日英バイリンガルプログラムが実施されている。
一般社団法人グローバル人財サポート浜松
浜松在住の外国人の就労支援や大学生の社会貢献活動を支援。独自のカリキュラムや教材を開発し、介護の現場で必要な日本語や技能の指導などを行なっている。
http://www.globaljinzai.or.jp/
—入国管理法改正により、2019年4月から在留資格が新設されるなか、外国人の就労支援の優れた先行事例としても評価されていますね。
堀永乃(以下、堀):浜松国際交流協会に勤めていた時から外国人の就労支援に携わっていました。ちょうど2008年のリーマンショックの影響で派遣という不安定な労働力であった外国人が一斉に職を失いました。日本人が好まない分野で汗水流し、産業の下支えをしている外国人がいとも簡単に切り捨てられることに、外国人支援と言っておきながら非力な自分を痛切に感じました。そこで、外国人にも手に職をつける必要があると2011年に立ち上げたのが、グローバル人財サポート浜松です。外国人が介護職につけるよう研修を行い、仕事の実践的な場面でも役立つ平易な日本語テキストなどを開発してきました。いま、私たちの団体を通して介護職に就労した外国人は83人(2019年4月現在)になりました。団体の理念は「人は地域の財産」。縁あって遠くからこの土地に来た人たちが、もっと生きやすく、なりたい自分になれる社会をつくりたいと思っています。
外国人が手に職をつけ、より生きやすい社会をつくれるよう、日本語研修や介護研修を行っているグローバル人財サポート浜松。
特定非営利活動法人パンゲア
ICT(情報通信技術)を使い、世界中の子どもたちが出会い、交流できるプラットフォームを運営。「ピクトン」という450種類にもおよぶ絵文字と、機械翻訳「げんごろう」などのツールでコミュニケーションをサポートしている。
http://www.pangaean.org/
—多様な文化背景をもつ子どもたちのコミュニケーションのために、「英語を学びましょう」ではなく、絵文字を開発した点がユニークだと感じました。
森由美子(以下、森):英語を母国語にしている人は世界の人口で2割しかいません。ビジネスの世界では英語が「最強」だとしても、私たちの目指す、さまざまな国の子どもが共生する環境で特定の言語を押し付けるのは違っていると考えました。「あなたの国も民族も文化も言語も宗教も、素晴らしい」と、子どもたちの出自をそのまま肯定したかった。
高崎俊之(以下、高崎):「げんごろう」は機械翻訳ソフトなので日進月歩、まだ実用には不十分なところはあるのですが、インターフェイスを工夫し、おっちょこちょいなキャラクターを「げんごろう」に付与することで、子どもたちが親しみを持てるようにしています。これらICTツールは、京都大学などの研究機関と連携して開発を続けています。
パンゲアが開発した「ピクトン」や「ゲンゴロウ」は、世界中の子どもたちが言葉の壁を超えてコミュニケーションをとるサポートとなっている。
—ここからは皆さんにお聞きしていきたいと思います。先進的な取り組みを立ち上げるにはご苦労があったことと思います。いずれも一人の力ではできないこと。どのように協力者、仲間を増やしてこられたのでしょうか。
堀:グローバル人財サポート浜松のスタッフは私のほかに、たった4人です。この規模のことを運用するには、人手も資金も足りていません。でも幸い、外部からたくさんの愛情と優しさをもらい、行政の方も含めて共感してくださる人が多くいます。授賞式でも、協力してくださっている企業の方が何人も会場に駆けつけて、「堀の晴れ舞台を見られて良かった」と言ってくれたり、記者に交じって記念の写真をとってくれたり......。そういう部分でも感慨深かったです。
日々の活動は、スタッフをはじめ、たくさんの人に支えられていると話す堀さん。
撮影:Keith Tsuji
森:パンゲアは今日まで17年ほど活動してきましたが、最初の数年はがむしゃらに取り組むうちに過ぎたとはいえ、以降は感情だけではもたないし、仲間が必要です。そのために私たちの活動が周囲に興味を持ってもらえるよう、常に進化したいと思っています。数年おきに新しいプロジェクトを立ちあげ、物やスペース、アクティビティのコンテンツを新しくつくっています。すると研究者をはじめ、関心を寄せてくれる方が多く現れます。ほかにない先端的な試みとして、いろいろな論文が書ける宝石の原石だと言っていただいています。
高崎:パンゲアのものづくりは特殊で、設計書どおりにつくって終わりではなく、「こういう要素を入れたら面白いんじゃないか」「これはなくした方がいい」と、現場で試行を重ねるスタイルです。私はICTシステム開発を担当していますが、たくさんのエンジニアが下支えしてくれています。技術スタッフをいれると150人くらいの協力者がいます。インターネットを通して海外からの参加も多いです。
光井:小松サマースクールは大学生が運営をしているのですが、大学生は基本的に4年間しか在籍しないので、数年で人が交代していきます。一般公募もしながら、学生の友達から友達へとバトンを渡すケースが一番多いですね。私たちとしては、いろいろな場に出て行って協力をお願いする。すると協賛者が、また別の協賛者を紹介してくださるので、順々にお願いしに行って......。そういうつながりは大事にしていますね。
—今後の活動の展開として、それぞれの地域のなかで生まれた成果を他の場所でも広げていくことについて、お考えはありますか。プログラムや仕組みをパッケージ化できる可能性はあるのでしょうか。
光井:サマースクールのノウハウの提供はいとわないので、他の地域でも手を挙げてくださるところがあれば協力します。ただ、自分たちで手探りしながらつくってきたものなので、その地域によってやり方って違うのかなと。
ステファン:地域によって、サマースクールのような取り組みが成立しやすいかどうかに違いはあります。それには物価の違いから生まれる費用の問題も大きくあります。以前試算したときに、同じプログラムを東京でやろうとすると最低1,500万円、福岡では1,300万円程かかると分かりました。しかし小松では東京の半分程度の費用で実施できます。この費用圧縮は主に、PIIで小松に来ている海外の学生たちが、1週間滞在を延ばしてこのサマースクールにも協力してくれることで可能になっています。いわばPIIとの絆によっています。ですから地域ごとの条件に応じたプログラムを考えていく必要がありますね。
他の地域で小松サマースクールのようなプログラム行うには、地域ごとのやり方やプログラムを考える必要があると話す光井さんとステファンさん。
撮影:Keith Tsuji
堀:グローバル人財サポート浜松が開発した教材『やさしい日本語とイラストで学ぶ みんなの介護』は、いまネットストアでも買えるようになっていて、世界中で使っていただくことが可能です。ただ、これはあくまで試行版であって、次の版を開発しなくてはとも思っています。以前にも、介護職員初任者研修のサブテキストとして『やさしい介護』という教科書を出版したのですが、その本を使用しているいくつかのケースを見た結果、こと細かに指し示すガイドが必要だと感じたのです。また、あくまでもテキストはツールのひとつにすぎないので、この新しい教科書を使って教える人や学ぶ人にも、マインドを提供するべきだとも思っています。
森:パンゲアの場合は、立ち上げの時点から世界中で展開することが前提でした。最初からケニア、オーストリア、韓国、日本の4拠点で基地づくりをしました。拠点はボランティアベースなので、中心的なスタッフが不足するなかでも運用できる仕組みも含めて、全てのノウハウをマニュアルに落とし込んでいます。
—拠点のスタッフとはどうやって出会ったのですか。
高崎:最初は、私と森が務めていたMITメディアラボの人づてに探っていきました。ケニアにいるメディアラボの卒業生にコンタクトをとったり、大学のコミュニティーの知り合いの方に紹介してもらってオーストリアの博物館にたどり着いたり。人づて、人づてに辿っていきました。
森:さっき堀さんが教科書についておっしゃっていたこととも通じますが、ノウハウを知っていたらできるというものではない。大切なのは、子どもの目線にたって民主的な物事の決め方を尊重する価値観を持っているかどうか。会って、話して、確認しました。
海外の拠点展開では人づてにスタッフを探していったと話す高崎さん(右)と、そのスタッフが自分たちと同じ価値観を持って活動を行えるかどうかを重視したと話す森さん。
撮影:Keith Tsuji
—信念があって活動していくうちに、コネクションが生まれていくのは皆さん共通なのですね。最終的にはひとりの人間として接していくことになるという部分も大きいでしょうね。
堀:人と接するときの視野、物事をとらえる視点は、なかなか自然には伝えられない部分です。
光井:私たちがやりたいことには、子どもたちの世代が、自分たちの手でよりよい将来をつくっていく力をつけてほしいということが、根底にあるような気がしています。高校生や大学生に、ワークショップなどを通して世界中の問題を自分たちで考えてもらいたい。ひとりではできないことも、ネットワークを使って解決し、自分たちの将来を自分たちで考えていけたら。そう、あらためて感じました。
インタビュー・文:竹見洋一郎
※小松サマースクール実行委員会の代表は、2019年4月1日付で、徐夢荷さんとなりました。