国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、1985年に国際交流基金地球市民賞*を創設し、全国各地で国際文化交流活動を通じて、日本と海外の市民同士の結びつきや連携を深め、互いの知恵やアイディア、情報を交換し、ともに考える団体を応援しています。昨年2016年度には、地球市民賞の受賞団体が記念すべき100団体に達しました。
そこで、日本各地で国際文化活動を行い、地域振興に貢献している団体に詳しい慶應義塾大学SFCの渡辺靖教授に、地域における国際文化交流の意義と今後の展望、国際交流基金地球市民賞の果たす役割についてご寄稿頂きました。
地球市民賞の受賞団体が100団体に
渡辺 靖(慶應義塾大学SFC教授)
日本各地で国際文化活動を行い、地域振興に貢献している団体についてこれまで多くを見聞してきた。その中で強く感じたことが幾つかある。
まず、第一に、世界と取り結ぶことで、自分たちの地域の独自性を再認識する機会になっている点だ。「東京一極集中」が指摘されて久しいが、いつの間にか東京(あるいは大都会)との比較を通して、日本の地方地域が自らの価値を自己規定するようになってしまった。その結果、せっかく東京から地方に赴いても、東京と似たようなチェーン店が並び、東京の流行を後追いするような文化シーンを目の当たりにすることが多くなった。その意味では、東京を介することなく、それぞれの地方地域の「縁」を通して、海外の地域や団体とつながり、そのプロセスを通して自分たちの魅力や課題、強さや弱さを知ることはとても意義深いことだと思う。
第二に、こうした国際文化活動を通して、自分たちの地域の独自性のみならず、海外との「共通性」も認識することができる点だ。「異文化理解」というと相手との違いばかりがクローズアップされてしまいがちだが、私自身の経験からしても、実は「相手も同じなのだ」という感覚を抱いたときにその醍醐味を実感することが多かった気がする。いわば自分の経験や感覚が何かしら普遍的なものであるという手応えを感じることの喜び。昨今、メディアの拡張に伴い、「文化的他者」に関する情報もめまぐるしい速度で飛び交うようになった。それは多くの恩恵をもたらす半面、固定観念(ステレオタイプ)や偏見を増幅する一因にもなっている。そうした時代だからこそ、国際文化活動を通し、直接「他者」と触れ合うことで、他者の中に自己を見出し、自己の中に他者を見出すことは大切だ。とりわけそうした感覚を若いうちに体感すること(させてあげること)はその後の人生の質に決定的な違いをもたらすのではないか。
第三に、これまで私が見聞してきた団体の活動を振り返ると、その運営の仕方、すなわちマネージメントやガバナンスという点で、実に斬新なものが多かったように思う。「斬新」とは、例えば、ヒエラルキー(上意下達)型よりもネットワーク(自立・分散・協調)型である、行政が「主導」ではなく「後方支援」に徹している、イノベーションや民間活力をうまく活用している、といった意味である。これらはしばしば「頭でっかち」な研究者や専門家にとっては「斬新」なのだが、地方地域の団体がごく自然に実行する姿を目の当たりにし、驚き、感心することが度々あった。ある意味、これも上述した「東京」の呪縛の一つなのかもしれない。どうしても官僚的・大企業的な組織機構が多く、研究者や専門家もいつの間にかそれを所与のものと考えがちだが、かえって地方地域の方が先端的で、多くのヒントに満ちている気がしている。
こうした日本各地のユニークな取り組みを顕彰する場として国際交流基金地球市民賞の果たす役割と責任は大きい。当然、「日本発」の優れた試みを国内外に発信・共有することには意義があろう。受賞団体の取り組みに触発されて、日本各地・世界各地で創造的な試みや相乗効果が生まれてゆけばいいと思う。と同時に、均質化が進むグローバル化の流れの中で、いかにローカルな価値や繋がりを編み直し、世界と取り結ぶかが急務の現代世界において、「日本発」のみならず、「海外発」の創造的な試みも集結させる機会があっても良いと思う。それは国際交流基金の地球市民賞を相対化しつつ、さらにバージョンアップする契機になると考えるからである。そして、さらには、「日本」(=「東京」や「地方地域」を含む)の利益のみならず、より普遍的な「国際益」にも資すると考えるからである。奇しくも日本では2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催される。是非、世界へ向けて地球市民賞の成果と意義を、より強靭に、より大胆に発信して欲しいと願う。
*創設当初の名称は「国際交流基金地域交流振興賞」、2004年に「国際交流基金地域交流賞」、2005年からは「国際交流基金地球市民賞」に改称し、現在に至っています。
2017年度の「国際交流基金地球市民賞」受賞候補団体を募集中!応募締切りは、2017年7月31日です。
渡辺 靖(わたなべ やすし)
1967年生まれ。慶應義塾大学SFC教授。ハーバード大学Ph.D. 専門は文化人類学、文化政策論、アメリカ研究。著書に『文化と外交』(中公新書)、『<文化>を捉え直す』(岩波新書)など。