日韓NGOの連携により、難民が守られる世界へ

石川えり(認定NPO法人 難民支援協会 事務局長)



 切磋琢磨――この言葉は日韓の難民支援NGOにまさに当てはまる言葉である。難民にとってよりよい環境を提供したい、という目的を共有し、時にはライバルとして取り組みを報告し合い、時には連携してアジアの状況改善に取り組んできた。
 韓国の難民受入れは日本から遅れること10年後の1992年に始まった。当初は日本の難民認定に関する法律の条文の多くをそのまま取り入れ、日本の政府関係者も法施行へあたり韓国へアドバイスに行ったとされている。そのため、日韓で難民が直面する課題も共通である。典型的な一例が、入国後、60日以内に難民申請をしないと不認定された「60日ルール」である。日本の裁判の中で60日以降に申請した難民が認定されると、韓国の弁護士は判例を翻訳して紹介した。2005年に日本が法改正して「60日ルール」を撤廃した際も、韓国でいち早く紹介、法改正へつながった。このように日常的に直面する課題を乗り越えるために、NGO同士の交流が深まっていった。

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東京での日韓NGO関係者の会合

 私自身の目を韓国に開かせてくれたのは、2007年の日中韓次世代リーダーフォーラムの参加であった。2カ月前までアメリカの難民支援NGOでフェローシップをしていた私にとっては、欧米の難民保護の水準にいかに追いつくかが強い関心事であった。しかし、同フォーラムで3カ国の参加者たちと議論し、親友になるにつれ、自分が暮らす東アジア地域への関心が高まり、難民保護を深化させていく重要性を実感した。折しも難民支援協会において韓国出身のスタッフが採用され、韓国では市民の手で難民保護法を作ろうという動きが盛り上がってきたことも受け、日韓NGOによる難民支援の経験交流を本格化させていくこととした。韓国では、2013年、ついに市民が発案した難民保護法が修正されながらも採択、施行された。両国間で交流する中で法改正という大きな成果を出されたことに日本側もNGOのみならず大いに刺激を受けた。この法改正は日本のみならず、アジア、広く世界へも好影響を与えている。

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韓国NGOによる多文化共生の取り組み視察

 交流を深めるうちに、日本・韓国の状況だけが改善すればよいのではないことにも当然ながら気付かされた。アジア地域には世界の難民・避難民等の3分の1が滞在している。一方、難民条約に加入し保護制度を整えている国は少なく、日本と韓国は数少ない難民条約加入国として、地域をけん引する役割を期待されている。日韓が協働してアジアにおける難民保護のモデルを示すことができたら、より多くの国が難民をより積極的に受け入れていくかもしれない。そのような期待のもと、複数取り組みが行われ、2009年には、日本・韓国のNGOも参加し、アジア・太平洋地域で難民保護に取り組むネットワーク組織が設立された。

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日韓の多様な関係者による円卓会議

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韓国の国会における円卓会議

 近年では、2010年の日本におけるアジア初の第三国定住による難民受入れ開始※ 、2013年の韓国における抜本的な難民法改正等、大きな進展も続き、さらに連携を強化している。当初はNGOの職員のみの交流であったが、次第に難民、行政府、国会議員、弁護士、研究者、難民を雇用する企業等、多様な関係者が参加するようになった。とりわけ、2013年11月に韓国で開催された円卓会議は韓国において政策立案に尽力した議員により、国会内で開催され、政府等多様な関係者が参加する機会となった。また、本年6月、韓国で難民として認定され、大学で人権について教鞭をとっているヨンビ トナ氏を日本へ招聘、韓国語で出版された彼の自伝を日本で出版できないかという模索も続いている。韓国では2015年より、日本に続きアジアで2カ国目となる第三国定住による難民受入れが開始するとされており、日本からのノウハウの提供等も求められている。

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韓国の難民支援NGOを訪問

 著者は2014年7月に言論NPO、韓国東アジア研究所が主催する日韓未来対話に参加する機会を得た。元外務大臣、研究者等の参加者の中で、両国を通じてNGOからは唯一の参加者であったが、とかく心配がちに語られる両国間関係において、難民支援という共通の課題で取り組むべきことが大いにあることを民間からの視点として訴えた。これは草の根での日韓交流への期待の表れだととらえている。
 世界の難民は残念ながら増え続け、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、本年6月20日現在、その数は第二次世界大戦以来最悪といわれる5120万人となった。主な増加の原因とされるシリア難民の流出はまだ解決の出口が見えていない。その中で難民保護に取り組む日韓の役割はより大きくなると考える。NGOとしてもより一層連携し、難民が保護される社会づくりのために貢献していきたい。



※母国を逃れた難民が、正式に認められず一時的に滞在している難民キャンプ等から離れた第三国が定住を前提に受け入れる制度のこと。




ngo_refugees07.jpg 石川 えり(いしかわ・えり)
1976年東京都生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業後、企業勤務を経て2001年より難民支援協会の職員となり、主に調査・政策提言の分野で国内外にて活動を行ってきた。難民問題にはルワンダにおける内戦等を機に関心を深め、同協会には設立前よりボランティアとして関わった。2008年1月より現職。共著として、『支援者のための難民保護講座』(現代人文社、2006年10月)、『外国人法とローヤリング』(学陽書房、2005年4月)ほか多数。 二児の母。




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