「アラブの春」の現場を巡って

松村豪太(一般社団法人ISHINOMAKI2.0 代表理事)



 2013年6月末から10日間に渡り、国際交流基金中東・北アフリカグループ招聘事業としてアブダビ(UAE)、バーレーン、クウェートという中東三カ国を巡回し講演しました。
 遡ること今年の2月、GCC(アラブ湾岸諸国)次世代リーダー訪日事業としてクウェートとバーレーンから行政職員やマスメディア関係者、クリエイターなどで構成される若手リーダー10名が来日し、「きずな」や「つながり」をテーマに東日本各地の取り組みや団体を巡りながら意見の交換をしていただきました。行程の中で我々の活動拠点も訪れていただき、震災復興の過程や、これまでにない「つながり」による新しいコミュニティづくりの取り組みについてお話させていただきました。今回の巡回講演は2月の訪日事業のフォローアップとして、今度は現地で改めて震災当時の様子や復興の過程、日本における新しい動きを紹介するとともに、2月に日本に来た若手リーダー達とより強固な関係を築き、日本との友好において草の根的にコアとなる存在を生み出すことを企図するものでした。
 ちょうど歴訪中、エジプトではムバラク政権崩壊後に誕生したムスリム同胞団主体の政権に対し事実上のクーデターが勃発したのですが、このことが表すように中東では「春」の嵐が吹き止んでおりません。何かが大きく変わろうとしている現場を自分の目で見ながら歩き、現地の人々の生の声を聴くことができたのは、震災を機会に「出る杭を伸ばす」街へバージョンアップすることを目標に活動している団体を率いている立場としてもたくさんの発見や示唆をいただくことができました。

 成田を出発し、最初に降り立ったのはアラブ首長国連邦(UAE)を構成する首長国の一つアブダビです。夜明け前についた空港ビルから外に出ると、中東ならではのムワッとした熱気が出迎えてくれました。車窓からはコンピューターゲームから飛び出してきたかのような個性的な高層ビルが巨大なモスクと並ぶのが見え、オイルパワーを感じます。
 さっそく初日から講演をしました。シャルジャ大学では学生の他、エジプトのジャーナリストや、社会的ビジネスを起こすことを考えているという女性のグループも聴きに来ていただいていた多様な顔ぶれ。男女別にしっかりとグループが分かれて座っている当たりにアラブの文化が感じられます。通訳の方の素晴らしい技術に助けられ、みなさん真剣に聞いて下さり質問もたくさんいただきました。石油という巨大な資源があるものの、それが永遠に続くわけではないことも理解している若者たちは日本に関心が高いことが感じられました。中東二日目は、アブダビ執行評議会で主に若手職員を対象としてお話ししました。特に、東日本大震災におけるボランティア参加の在り方に関心を寄せていたようでした。国・行政とは別に、それらと連携しながら草の根的に民間の団体や個人が多大な貢献をし、成果を上げたことについて、その運営の具体的態様に加え、何よりもボランティア参加することについての動機-お金ではなく価値観を共有し、相手を慮るとともに自己実現の側面も持ちながら多くの人間が参加したことに興味をもたれていました。

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シャルジャ大学での講演。男女別にしっかりとグループが分かれて座っている。

 アブダビを後にし、二カ国目は空路バーレーンへ。バーレーンでの最初のプログラムは、青年スポーツ省にて内閣府の世界青年の船(SWY)のOB・OGを対象にお話をしました。ここでは参加者が少なめだったこともあり、「つながり方」をテーマに膝を詰めた意見交換する形でのワークショップを行いました。
 翌日は駐バーレーン日本大使を表敬訪問し、午後から王立女子大学で講演をいたしました。女子大学ではあるのですが、開かれたイベントということもあって社会人や男子学生も多く来場しておりました。男女がしっかり分かれていたアブダビに対し、入り乱れて席についているバーレーンはくだけた印象を受け、イスラムとしても国によって解釈や取り組み方が様々であることを感じました。
 バーレーンでで面白かったのはスーク(市場)です。戦後のあめや横丁のように、雑多に入り乱れた路地に小さな店舗が密集していて大変活気があるのですが、彼の地でもそうした雑多な状態に対し再開発の動きがあるようです。空調が効いた再開発商業ビルはそれなりに昔の趣を残す工夫などがされているのですが、手の付けられていない路地の商店に比べて活気を感じられません。昼食中に案内をしてくれた方に聞いてみた感想でも再開発の在り方に複雑な思いがあるようで、そうしたところは日本と同じだなぁと感じました。

around_arab_spring02.jpg around_arab_spring03.jpg around_arab_spring04.jpg  中東巡回最後の国はクウェートです。アブダビ、バーレーンもとても暑かったですが、クウェートの暑さは一段上でした。バーレーンにて「クウェートには気温50度を超えた場合屋外での労働を禁止する法令があるが、それで労働生産性が低下することを嫌う政府は実際より低く気温を発表し、天気予報はつねに50度を微妙に下回る数字を表示する」という冗談を聞いていましたが、どうも単なる笑い話ではないようです。移動中の車の温度計も50度を超える数字を表示していました。
 クウェートは今回の震災において、500万バレルの原油をはじめとして諸外国の中でも特に大きな支援をいただいた国です。また、湾岸戦争からの復興の過程で政策の在り方をシフトチェンジした国でもあります。
 クウェートも2月の訪日事業に参加しており、空港到着後、その際のメンバーと再会を喜びながら昼食をともにしました。
 翌日、午前中に駐クウェート日本大使を表敬訪問して今回の事業についてご説明し、午後から湾岸科学技術大学(GUST)にて今回のプログラム最後の講演をしました。GUSTでの講演は日本大使館が告知から当日の会場準備まで全面的にサポートして下さり、100名近い来場を得ることができました。会場には日本からの留学生2名もいらっしゃっていました。お話の中でも、目の前の課題に対して民間プロジェクトだからこそのスピード感ある自由な発想での対応ができたことに対し、クウェートでも行政の動きの鈍さへの不満があることから高い関心を寄せて下さったようでした。

 中東の国々は総じて石油の恩恵により豊かであるものの、イスラムの宗派対立、外国人労働者との格差など多くの問題を孕んでいます。今まさにいわゆる「アラブの春」という革命的動きのさなかなのですが、実は2月の訪日事業に参加し今回現地でのコーディネイト協力して下さった方々は、巡回した国の中では体制の主流を占めるスンニ派に属する方々でした。報道などではアラブの春が肯定的に持て囃されることが多い気がしますが、実際にお話ししてみると、いわゆる体制側に近い人物の中にも彼らのように理性的で真摯に物事に取り組んでいる方もおり、英雄的に取り上げられる反体制側にも無責任な主張もあることを知りました。むろんこれまでの政治や国の仕組みに歪みがあったのも事実でしょうし、双方の主張ともそれぞれ理があるのでしょうが、少なくとも単純な二者択一でどちらが正しいと決められるものではないのだと、改めて確認いたしました。
 これから「春」がどのように進むのかは予想がつきませんが、いずれにせよ今回お世話になった方々はキーパーソンになっているであろうと思われます。国同士のつながりとは別に、そうした方々と深いつながりを持っておくことにはとても大きな意義があると思います。





around_arab_spring05.jpg 松村 豪太 (まつむら ごうた)
1974年生まれ 東北大学大学院法学研究科修了
一般社団法人ISHINOMAKI2.0 代表理事
石巻経済新聞編集長
ラジオ石巻「RealVOICE」パーソナリティー
いしのまきNPOセンター「巻.com(マキコム)」プロジェクトマネージャー
地元石巻でスポーツを通したまちづくり活動を行う。勤務中に津波被害にあい自宅も半壊するが、震災直後から瓦礫撤去、泥かき、仮設住宅団地のコミュニティー形成などに奔走し、石巻中央部の復興活動の中心的な役割を担う。
ISHINOMAKI2.0の発足後は復興のアイデアを次々と実行に移し、街の内外の様々な立場の人々をつなぎながら石巻のバージョンアップを目指す。夜は「復興バー」のマスターとして石巻の復興を願う住民や全国の支援者の架け橋の役割も担っている。




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